猫の直腸脱(その1 注射筒を用いた整復法)
こんにちは 院長の伊藤です。
本日ご紹介しますのは、仔猫の直腸脱です。
直腸脱は慢性的なしぶりや頻回の排便排尿行動による怒責の結果として発症します。
しぶりの原因として幼若動物の消化管内寄生虫感染、重度の下痢、膀胱炎などが挙げられます。
猫のティーちゃん(雑種、約80日齢、雌)は直腸が飛び出しているとのことで来院されました。
下写真の黄色丸は肛門から脱出している直腸です。
お腹に力を常時入れており、疼痛が酷いのが分かります。
脱出した直腸をしっかり洗浄消毒します。
脱出している時間が長い程に直腸が浮腫を起こします。
浸透圧を利用して、患部にブドウ糖液を滴下して浮腫を改善させます。
直腸の滑りを円滑にするためにオイルを塗布します。
脱出直腸を肛門内に完納させるために用手で押し込んでいきます。
何とか戻すことが出来ましたが、ティーちゃんはすぐに腹圧をかけてしぶり始めます。
直腸脱の非観血的治療法としては、巾着縫合法といって肛門周囲を縫合糸で縫い込んで絞り込んで、直腸の脱出をブロックする方法を採ります。
しかしながら、肛門周囲巾着縫合法では脱出を防ぎきれないくらいの腹圧なので、注射筒を利用した整復法を実施することとしました。
ティーちゃんはまだ3か月齢に達していない仔猫なので、短めに注射筒をカットして手元の翼の部位に縫合用の穴を数か所開けます。
患部にカットした注射筒を挿入して、縫合していきます。
直腸を押し出す力が非常に強いため直径の異なる2本の注射筒を装着することとしました。
合計8か所を縫合して脱出直腸を完納しました。
このまま、この状態で1週間放置します。
1週間後に注射筒をはずして再脱出がなければ治療は終了です。
ティーちゃんは慢性的な下痢をしており、検便したところ壺形吸虫の高度感染が認められました(下顕微鏡写真)。
下は壺形吸虫の高倍率写真です。
壺形吸虫はカエルやヘビを中間宿主とする寄生虫です。
ティーちゃんは野良猫であったため、野生の生活をしていた可能性が高いです。
恐らくは両生類や爬虫類を摂食していたと思われます。
ティーちゃんには駆虫薬を飲んで寄生虫を駆除してもらうこととしました。
残念ながら、ティーちゃんは1週間目にして注射筒の縫合部が破壊され、直腸は再脱出してしまいました。
もはや、非観血的整復法では直腸脱は治せないと判明しましたので、最終処置として開腹して下行結腸を腹壁に縫合して整復する方法を採ることとなりました。
この手術については、次回載せます。
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