こんにちは 院長の伊藤です。

本日ご紹介するのは犬の精巣腫瘍です。

精巣腫瘍については以前、犬のセルトリ細胞腫ウサギのライディッヒ細胞腫

についてコメントさせて頂きました。

その詳細について、興味のある方は上記下線をクリックして下さい。

ボストンテリアのモモタロウ君(雄 13歳4か月齢)は睾丸が腫れてきたとのことで来院されました。

モモタロウ君は高齢犬でもあり、未去勢でこれまでいたため精巣が腫瘍化したことは明らかです。

精巣腫瘍についても良性のものもあれば悪性腫瘍もあります。

まずは精巣腫瘍を摘出し、病理検査に出すことにしました。

モモタロウ君に全身麻酔をかけます。

仰向けの姿勢で手術台に保定します。

左側の精巣が腫大しています。

下写真の黄色丸が腫大してる精巣を示してます。

左下方に腫瘍精巣に圧迫された右精巣(正常)が認められます。

腫大してる左精巣をまず摘出します。

陰嚢の付根近くをメスで切開します。

左精巣を包む白色を呈する総鞘膜が現れます。

この総鞘膜と精巣が癒着している場合は必ず総鞘膜を含めて精巣ごと閉鎖式で摘出します。

今回は癒着は全くなく、総鞘膜を切開して行う開放式で去勢を実施しました。

精巣を牽引して蔓状静脈叢、精管・精管動静脈を結紮し、メスで離断します。

下写真は健常な精巣です。

一般の去勢術よりも皮膚の切開部位は大きめに取らざる得ませんでしたが、無事手術は終了しました。

麻酔から覚め始めたモモタロウ君です。

術後の患部からの出血は認められません。

下写真は摘出した精巣です。

左側が正常な精巣で、右側が腫瘍化して腫大した精巣です。

腫瘍化した精巣のに割を入れてみました。

精巣実質には空砲が形成され、液体の貯留が認められました。

今回摘出した左精巣を病理検査に出しました。

結果はライディッヒ細胞腫(精巣間細胞腫)であることが判明しました。

精巣腫瘍は高齢犬で発生率が高く、特に腹腔内に停留する潜在精巣では陰嚢内精巣の10倍以上の腫瘍発生率が高いとされています。

精巣腫瘍は大きく3つに分類されます。

セルトリ細胞腫、精上皮腫(セミノーマ)、ライディッヒ細胞腫の3つです。

セルトリ細胞腫と精上皮腫は精巣全体が顕著に腫大・硬結し、特にセルトリ細胞腫ではいびつな形状をすることが多いとされます。

加えて、この2つの精巣腫瘍はリンパ節や主要臓器に転移病変を作る場合もあり、注意が必要です。

一方、ライディッヒ細胞は腫瘍自体は実質内部に球状に存在することが多く、精巣全体が腫瘍化することがないため精巣全体が腫大化することはないとされます。

また、ライディッヒ細胞は大多数が良性腫瘍であり、去勢手術により治癒します。

下写真は今回のモモタロウ君の病理写真(低倍率)です。

下は中倍率の写真です。

ライディッヒ腫瘍細胞は多角形を呈して細胞質内に空胞を含み、間質で増殖して肝細胞の様に索状に配列する特徴があります。

いづれの精巣腫瘍であれ、若齢で去勢手術を受けることで精巣の腫瘍化は未然に防ぐことが可能です。

特にセルトリ細胞腫になった場合は、高濃度のエストロジェンにより骨髄の造血機能が顕著に抑制され、重度の再生不良性貧血を起こし死亡する場合もありますので要注意です。

モモタロウ君、お疲れ様でした!

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