こんにちは 院長の伊藤です。

本日、紹介しますのは猫の異物誤飲の症例です。

これまでにも何例か、猫の異物誤飲の症例を報告させて頂いてます。

特に猫の場合は、犬と異なり直線状の異物(紐状のもの、毛糸やナイロン紐など)に興味があり、要注意です。

紐状の異物(線状異物と呼びます。)を誤飲し、腸に降りた場合、線状異物が腸に食い込み、巻き上げ、千切ってしまうこともあります。

最悪の場合、断裂した腸から内容物が漏出して腹膜炎を引き起こすこともあるため、注意が必要です。

猫のにゃんた君(雄、3歳、体重4.5kg)は自宅でリボンが先についたおもちゃで遊んでいるうちに先端部のリボンを誤飲してしまったとのことで来院されました。

リボンの長さと材質が気になるところです。

材質は化学繊維(ポリエステル)であり、誤飲した長さは15㎝以上あるようです。

化学繊維の種類にもよるのでしょうが、腰のある繊維ならば腸管を絞扼する可能性も考えられます。

ひとまず、レントゲン撮影を実施しました。

腸蠕動が停滞気味なのか、腸管内にガスが貯留しています。

腸閉塞の可能性も考慮して、バリウム造影を行いました。

下写真はバリウムを投与した直後の画像です。

造影剤の流れはスムーズで特に胃腸内で停滞することはないようです。

その後、経時的に何枚もレントゲン撮影を実施し、最終的に5時間後に撮ったのが下の写真です。

猫の場合は、造影剤を投与して約2時間で直腸まで流れます。

にゃんた君は5時間経過していますが、造影剤は下行結腸まで流れており、胃腸の蠕動障害や腸閉塞は無さそうです。

とは言え、ある程度の長さのある線状異物を2本飲み込んだという事実がある以上、経過観察で排便内に混ざってリボンが排出されるのを祈念しながら待つか、試験的開腹で摘出を積極的に実施するか悩ましいところです。

必ず、異物が体外へ排出されるかは保証の限りではありません。

例えポリエステルのリボンであれ、前述の通り、腸を絞扼する可能性はあるわけです。

飼い主様と相談の結果、試験的開腹を行わせて頂くこととなりました。

にゃんた君に全身麻酔をかけます。

にゃんた君は維持麻酔で安定して寝ています。

腹筋を切開します。

空回腸から線状異物の存在をチェックしていきます。

空回腸は、殆どの領域が空虚でした。

下降結腸の一部に大きな糞塊が確認されました。

最後に胃を確認します。

胃内に食渣が触診上、確認されます。

消去法となりますが、腸内に異物が確認できない以上、胃内を切開してチェックします。

胃壁に支持糸を掛けます。

2か所から支持糸で切開部位を牽引して、胃壁に緊張を加えます。

胃切開を実施します。

切開と同時に胃内の食差が溢れて来ます。

その中で、線状異物らしきものの端を鉗子で把持することが出来ました。

異物を胃の外に引きづり出しているところです。

白い色のリボンと思しき異物が出て来ました。

さらに胃内を探索するともう一つの異物が鉗子に引っかかって来ました。

下写真がその異物で、どうやら赤いリボンのようです。

そのまま胃の外に摘出しました。

最終的に胃内にまだ残っている食差を全て取り出し、確認しました。

2本の赤白のリボンが胃内に留まっていました。

切開した胃壁を縫合します。

胃の縫合は終了です。

腹腔内を生理食塩水で何度も洗浄します。

バキュームで洗浄した生理食塩水を回収します。

腹筋を縫合します。

皮膚縫合して終了します。

全身麻酔から目覚め始めたにゃんた君です。

下写真は摘出したリボンです。

ポリエステルという素材は腰が柔らかく、丸く縮まる特性があるようです。

リボンの両端をテープで留めて、どれくらいの長さがあるか確認しました。

術後経過は良好で、5日目の退院時のにゃんた君です。

レントゲンやエコー検査を併用しながら異物の存在を追及していきますが、異物の種類によっては決定的な証拠がつかめないことも多々あります。

飼い主様の異物を飲んだところを見たという証言も非常に大切です。

異物が体内に存在するか不明な時は、飼主様から試験的切開の了解を頂けるかも大切です。

試験的切開のタイミングを失すると命に関わる状況にもなります。

にゃんた君、お疲れ様でした!

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