犬の肛門嚢摘出手術
以前、犬の肛門嚢炎を犬の疾病に載せたことがありました。
一度、肛門嚢炎を起こしますとお尻の皮膚が破裂して臭腺の臭い分泌液が漏出してきます。
その詳細は犬の肛門嚢炎をご覧ください。
肛門嚢炎・肛門嚢破裂は、患部の洗浄や抗生剤の内服で治ることは治るのですが、また間をあけて再発する症例が多いです。
そうなると飼い主様から、問題となる肛門嚢自体を摘出できないかという要望が出てまいります。
そこで今回、この肛門嚢摘出手術をご紹介します。
ヨークシャーテリアのモコちゃんは、度重なる肛門嚢破裂で、いつもお尻を気にする生活を送っていました。
患部を舐めようとしたり、肛門を床面にこすり付けようとズリズリしたりの毎日です。
排便時にも疼痛があり、常時肛門嚢の分泌液が悪臭を放っています。
モコちゃんの飼い主様より、肛門嚢摘出の依頼を受け、アナルサック・ゲル・キットを使用して手術を実施しました。
このアナルサック・ゲル・キットは、高分子の緑色のゴム状の物質を沸騰水中に入れて熱で溶解させ、ゲル状にして肛門嚢に注入して硬化させた後、肛門嚢を摘出させるというキットです。
下の写真にありますように、沸騰水で軟化したカートリッジのゴムをシリンジに組み込んで注入します。
上の写真でマジックで丸を付けた2か所が、肛門嚢の導管です。
穴が開いているのがわかりますか?
この導管内にシリンジの先端を挿入します。
注入後、数分でゲルは硬化して肛門嚢の所在がクリアになります。
私の手術法では、肛門嚢の上付近にメスを入れ、肛門嚢周辺の結合組織を鈍性剥離して導管の開口部近くを吸収糸で結紮します。
肛門嚢摘出手術は多くが肛門嚢破裂を繰り返す患者が多いですから、肛門嚢とその周囲の結合組織が癒着していることがあります。
うまく外科鋏などで鈍性に剥離できれば良いのですが、肛門嚢を裂いたりすると後の処置が大変です。
このキットを使用することで、熱を持ったゲルの効果で肛門嚢内の毛細血管からの出血を抑え、周辺組織との識別が容易となりました。当然、手術時間も短縮できます。
肛門周辺は血管をはじめ、神経も密に走りこんでいますので肛門周囲の手術は思いのほか、煩雑で苦労することが多いです。
下の写真は左右の肛門嚢を摘出した後、皮膚縫合した写真です。
術野が糞便で汚染されないように肛門に綿花を詰めています。
その後、モコちゃんは肛門嚢に絡む問題もなく、快適に日常生活を送れるようになりました。
肛門嚢自体がありませんので、今後肛門嚢を絞ったりする必要もありません。