猫の難治性口内炎
今回は猫の難治性口内炎をご紹介します。
一般に中高年以降の猫に難治性口内炎は発症します。
その原因については、色々説があり現時点では、不明とされています。
しかし、以下の要因が複合的に絡み合って発症するようです。
1:口腔内細菌の日和見的感染
2:歯石・歯垢の沈着
3:猫免疫不全ウィルス(FIV)・猫白血病ウィルス(FeLV)・猫カリシウィルス(FCV)等の感染
4:腎機能障害・肝機能障害や栄養不良等の基礎疾患
いずれにせよ、この難治性口内炎に罹患しますと
激しい疼痛、流涎、口臭、嚥下困難、食欲低下を伴います。
たとえて言えば、私たちが風邪の引き初めに口内炎で口腔粘膜や舌に潰瘍ができて、痛い思いをすることがあるかと思います。
あの潰瘍の何倍もの大きさが口腔内に数か所できるとイメージしていただければ、どれだけ痛いかご理解できると思います。
下の写真は下顎の激しい歯肉口内炎の猫です。
黄色い部分が潰瘍巣となって歯茎が避けているのがお分かりいただけますか?
治療法として、FIVやFeLV等の感染や基礎疾患が認められない場合は、抗生剤の投薬(クリンダマイシン、クラブラン酸アモキシシリン等)で経過を見ますが、改善がなければ全身麻酔を施し、歯垢・歯石を除去し歯周病がひどければ該当部の歯を抜歯します。
それでも改善しなければ、ステロイド剤(プレドニゾロン、酢酸メチルプレドニゾロン)の投薬を行います。
ステロイドにも反応しない場合は、全ての全臼歯あるいは全顎抜歯を施します。
臼歯を全て抜歯することで、殆どのケースは口内炎が治まります。
下の写真は数年にわたり対症療法で難治性口内炎の治療をしてきた猫のミー君です。
その都度ステロイド療法で対応してましたが、その効果も次第に弱くなってきました。
臼歯を全て抜歯することに飼い主様も当初、躊躇されていましたが、意を決して今回、全歯抜歯を遂行することとなりました。
全臼歯抜歯ですから当然、全身麻酔を行います。
歯肉をメスで切開します。
ラウンドバーを用いて、頬側歯槽骨を切削します。
テーパータイプのラウンドバーで歯冠を分割し、歯根を近心根と遠心根に分離します。
エレベーターを用いて、歯根を頬側へ脱臼させます。
抜歯鉗子を用いて臼歯を抜歯します。
頬側歯肉と口蓋粘膜をモノフィラメント吸収糸で縫合します。
下の黄色い円の部分が縫合後の状態です。
臼歯を全部抜歯して食事は十分撮れるのか?心配される飼い主様も多いです。
抜歯後、1~2週間は疼痛管理は必要ですが、その後は普通に生活を送ることが可能です。
普通にドライフードを食すことができる猫も多いです。
このミー君も長年、難治性口内炎で苦労されていましたが、この全臼歯抜歯後は快適に食生活を送っています。
対症療法として、長期型のステロイド療法を選択される飼い主様も多いですが、副作用として糖尿病が合併症で起きたりします。
難治性口内炎の治療は長期にわたることが多いです。
食事が自身では十分に取れませんので、飼い主様が強制給餌をしなければならないといった、要介護の状況もあるかと思います。
当院では飼い主様との話し合いの中で、治療法を決めさせていただいています。
そんな中、全臼歯抜歯処置も積極的に治療法の選択肢に入れていただいても良いかと思います。