犬の肥満細胞腫は色んな部位に発生しますが、その9割が皮膚に発生すると言われます。

皮膚の悪性腫瘍の内、3割近くをこの肥満細胞腫が占めており、皮膚腫瘍の中では最も多い腫瘍です。

この肥満という単語から太ることで発症する腫瘍なの?と質問を受けることが多いです。

これは、肥満細胞という血管周囲、皮膚、皮下組織、消化管、肝臓等に広く存在している細胞が原因となって引き起こされる悪性の腫瘍です。

決して肥満の犬がかかりやすくなる腫瘍ではありませんので念のため。

今回ご紹介しますのは、ヨークシャーテリアのルルクちゃん(雌、8歳)です。

左側口唇部が皮膚が赤くただれて、舐めまわしているとのことで来院されました。

黄色丸の部分が少し赤いのが分かると思います。

アカラス等の寄生虫も視野に入れ、皮膚掻爬検査をしましたが陰性です。

痒みが基調となって舐めまわしておりますので、ステロイドと抗生剤を処方して、かつ細胞診診断を検査センターへ依頼しました。

その結果が、アレルギー性口唇炎との診断結果でした。

腫瘍細胞も認められないとのことでしたので、その後同じ内服を継続しましたが、思いのほか改善がありません。

下は2週間後の写真です。

アレルギー性とは言え、左側口唇だけの病変で口周辺の炎症は他に認められず、ステロイドもそれ程の効果はなさそうです。

さらに4週間後の写真です。

患部は既に大きく腫大し始め、発赤を呈し皮膚の一部は潰瘍化しています。

加えて、下顎リンパ節の腫大が認められました。

この時点で、細胞診の再検査の必要を感じ、検査センターへ依頼したところ、グレードⅡ型の皮膚肥満細胞腫という診断書が送られてきました。

その細胞診の写真を下に載せます。

大小不同性の楕円形の核と乏しい細胞内顆粒の肥満細胞が多数認められます。

6週間前の細胞診では、肥満細胞は見つからなかったようなのですが、この6週間で肥満細胞が増殖したとの見解です。

このタイムラグが悔やまれます。

病変部の場所が問題で、外科的に切除するならば上の唇を大きく切除する必要があります。

また外科的にうまく切除したつもりでも、肥満細胞腫は再発する可能性が高いです。

飼い主様のご意見を尊重して、岐阜大学の動物病院をご紹介させていただくこととなりました。

現在、岐阜大学動物病院は高出力の放射線治療装置が配備されています。

腫瘍科の病院スタッフから、放射線治療と抗がん剤(イマチニブとプレドニゾロン)による化学療法の2本立ての治療を提案されました。

ルルクちゃんは定期的に岐阜大学で治療を進めることとなりました。

この肥満細胞腫には副腫瘍細胞腫症候群といって、腫瘍に随伴して生じる病態があります。

そのひとつにダリエール症状と言って、腫瘍細胞から顆粒が放出され紅斑・出血・浮腫等の炎症反応が引き起こされ、その結果、重篤な肺水腫やアナフィラキシーショック等突然死に至ることもあります。

必ずしも、簡単な治療ではないのです。

治療を開始してから約1か月後の写真です。

ルルクちゃんの患部の発赤・腫脹がおさまり、すっきりしているのが分かります。

さらにその3週間後の写真です。

患部は完全寛解と判断されました。

つまり腫瘍が消失したということです。

さらに下顎リンパ節の腫大も認められません。

現時点では他の臓器に転移も認められず、比較的短期間で完全寛解に至ったと考えられます。

今後は、定期検査を続行して経過観察していく予定です。

良かったね!ルルクちゃん!

今後、再発・転移がないことを祈念します。

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