ウェルシュ・コーギーの軟部組織肉腫
こんにちは 院長の伊藤です。
今回、ご紹介しますのは軟部組織肉腫という腫瘍の摘出手術です。
ウェルシュコーギーの半蔵君(11歳7か月・雄)は右側腹部にしこりがあるとのことで来院されました。
患部を針生検で細胞診したのが下写真です。
病理医から軟部組織由来の間葉系腫瘍、つまり悪性腫瘍との診断を受けました。
触診では、患部は皮下組織に限局しているように思えました。
レントゲン撮影、エコー検査で遠隔部の転移が無いことを確認しました。
日を改めて、半蔵君の腫瘍を摘出することとしました。
下写真黄色丸は全身麻酔下の半蔵君の腫瘍を指します。
転移を防ぐため、腫瘍組織のマージン(縁取り)を出来るだけ広く取りつつ、摘出します。
半蔵君の皮下脂肪が思いのほか厚く、えぐるような感じで筋肉層まで脂肪組織を切開していきます。
ところどころに太い血管も走っており、不用意に切断しないようにメスを進めていきます。
電気メスで出血部は凝固させます。
腫瘍組織自体は皮下組織でとどまっていましたが、接触の可能性がある筋膜層も1層切除することにしました。
切除した腫瘍です。
半蔵君の摘出後の皮下組織を死腔ができないよう細かく縫合していきます。
手術終了時の患部です。
麻酔覚醒直後の半蔵君です。
お疲れ様でした。
摘出した腫瘍とそのマージンです。
この腫瘍を病理検査に出しました。
下写真が高倍率の病理組織顕微鏡像です。
一面が腫瘍性紡錘形細胞で敷き詰められています。
病理医の診断は軟部組織肉腫・グレード2と判明しました。
軟部組織肉腫は悪性腫瘍に分類されます。
その発生部位に応じて線維肉腫、血管周囲腫、脂肪肉腫などと呼称されますが、その特徴は共通していますので軟部組織肉腫として一つのグループにまとめられています。
悪性度により、転移という現象が悪性腫瘍には認められます。
軟部組織肉腫はグレード(悪性度)3まであり、外科的切除後の転移率はグレード1が13%、2が7%、3が41%という報告があります。
軟部組織肉腫は、比較的遠隔転移が起こりにくい腫瘍とされています。
ゆっくりこの腫瘍は成長していき、多くは臨床症状を示さないことが多いです。
グレード3の症例には、外科的手術に加えて化学療法が推奨されていますが、この軟部組織肉腫の化学療法の効果についてはほとんど報告されていません。
半蔵君はグレード2とのことで今回は、外科的切除で対応させて頂き、経過観察することとしました。
退院時の半蔵君です。
そして2週間後の抜糸した半蔵君の患部です。
綺麗に縫合部の皮膚はついています。
術後3か月近く経過した現在、転移もなく半蔵君の状態は良好です。
今後の経過を慎重に診ていきたいと思います。
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