犬の口腔内悪性黒色腫(メラノーマ)
こんにちは 院長の伊藤です。
本日、ご紹介しますのは犬の口腔内に生じた悪性黒色腫の話です。
以前にもウサギの悪性黒色腫についてコメントさせて頂きました。
詳細はこちらをクリックして下さい。
犬の口腔内悪性黒色腫(メラノーマ)は、最も良く見られる口腔内悪性腫瘍とされます。
通常、メラニンを伴う著しい色素沈着が見られる腫瘍です。
皮膚に発生するメラノーマは良性であることが多い一方で、口腔内メラノーマは大部分が悪性腫瘍と言われます。
メラノーマの発生年齢の平均は約11歳と報告され、高齢犬の疾患とされています。
メラノーマは高率で歯肉に発生します。
多くの飼主様は持続的な口臭や口腔内からの出血、嚥下困難を理由に来院されます。
ミックス犬のあずきちゃん(年齢不明、未避妊)は、口腔内に黒いできものがあり、次第に大きくなってきたとのことで来院されました。
あずきちゃんは迷い犬で、たまたま飼主様宅に迷い込んできたそうです。
そのため、実年齢は定かではありませんが、おそらく10歳は超えているでしょう。
下写真黄色丸が口の横にできた腫瘍です。
メラノーマによる悪臭があずきちゃんの口腔内から漂っています。
この腫瘍はどのようなタイプか細胞診を実施しました。
結果は口腔内悪性黒色腫(メラノーマ)との病理医からの診断でした。
他の部位への転移がないか、各リンパ節を初め胸腔内のレントゲン撮影を実施しましたが、特に転移は認められませんでした。
口腔内メラノーマは転移率が高い一方で、外科手術を初期のステージから施せば苦痛の緩和のみでなく、生存期間を延長させることも可能です。
あずきちゃんは、外科的にこの口腔内メラノーマの摘出手術を受けられることになりました。
メラノーマに加えて、乳腺腫瘍もあり(下写真黄色丸)、これらの腫瘍を一度に摘出することになりました。
患部の拡大写真です。
乳腺腫瘍については、本来腫瘍の近傍の乳房も合わせて摘出するのが常なんですが、飼主様の希望もあり局所の腫瘍のみ摘出することとなりました。
強い力で患部を牽引すると千切れて出血が予想されましたので、バイクランプを使用して摘出することとしました。
大きな腫瘍ですので、栄養血管も腫瘍内に太いものが入り込んでいるため、バイクランプの80℃の過熱で血管をシーリングして短時間で摘出する予定です。
可能な限り健常な口腔粘膜とメラノーマの境界面をバイクランプでシーリングを実施して行きます。
バイクランプの過熱で、手術室は独特な焦げ臭い匂いで充満します。
さらに細かな止血・切開作業はバイポーラの電気メスで進めます。
メラノーマ(下写真黄色丸)を摘出しました。
さらに歯肉表面に浸潤していると思しき箇所には、半導体レーザーで焼烙します。
これで処置は終了です。
乳腺腫瘍も部分摘出完了です。
麻酔から覚醒したあずきちゃんです。
摘出したメラノーマです。
切開した断面です。
腫瘍の内部までメラニン色素が浸潤しています。
この断面をスタンプ染色して顕微鏡で確認しました。
強拡大像です。
腫瘍細胞の細胞質は色素顆粒が認められます(黄色矢印)。
今回の手術は口腔内ということもあり、場合によっては腫瘍が歯槽骨まで浸潤している可能もあります。
マージンを十分に確保して摘出することができない部位でもあり、今後再発する可能性も考えなくてはなりません。
あずきちゃんは外科手術の補助として、化学療法のうち内服薬でしばらくバックアップしていく予定です。
大変な手術でしたが、良く頑張ってくれました。
あずきちゃん、お疲れ様でした!
最後に飼主のお姉ちゃんたちとのショットです。
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