犬の脾血腫
こんにちは 院長の伊藤です。
犬において脾臓が腫大することは少なくありません。
脾臓が腫大すると血管肉腫に代表される悪性の腫瘍をイメージしがちです。
しかし、脾臓腫大でも良性腫瘍であったり、非腫瘍性のものである場合もあります。
以前、脾結節性過形成の記事を載せましたので、興味のある方はこちらを参照下さい。
さて本日ご紹介しますのは、脾臓の腫大であっても非腫瘍性である脾血腫についてコメントさせて頂きます。
パピヨンのコロ君(11歳8か月、雄、体重6.5kg)は元気消失・食欲廃絶とのことで来院されました。
腹部が腫大している感がありますので、レントゲン撮影を行いました。
下写真の黄色丸が腹腔内の大きなマス(塊)を示します。
さらに下写真の黄色矢印は、大きく腫大している脾臓を描出しているのが判明しました。
この時点でのコロ君の血液検査で赤血球数は536万、ヘマトクリット値は34.9%で正常値を共に下回っています。
コロ君はこれまで内分泌系疾患や免疫系疾患の既往歴はありません。
引き続き、超音波検査を実施しました。
下写真の脾臓内は大小さまざまな嚢胞が形成され、何らかの液体状のもの(血液や膿)が入っていると推察されました。
エコーの所見から血管肉腫のような脾臓実質の腫瘍ではなく、脾臓の内部で血管が破たんして出血した結果としての脾臓血腫が伺えます。
いずれにせよ、脾臓内での出血は進行している可能性があり、脾臓腫大に伴って、腹腔内での脾臓破裂が予想されますので脾臓全摘出をすることとしました。
コロ君に麻酔前投薬をします。
下写真の黄色丸は腹部の腫大を示しています。
腫大した脾臓が横隔膜を通して心臓を圧迫するのを防ぐために手術台を傾斜させます。
腹筋にメスを入れます。
開腹した腹腔内は大きく腫大した脾臓が顔を出しています。
脾臓を全摘出するにあたり、腹腔内から脾臓を持ち上げてある程度体外に出す必要があります。
この時、不用意に力を入れて脾臓を牽引しますと血管を損傷して、大出血する場合がありますので細心の注意が必要です。
脾臓を体外に出しました。
次いで脾動静脈や左胃大網動静脈などをバイクランプでシーリングしていきます。
以前は血管一本ずつを縫合糸で結紮して、大変時間を要しましたが、バイクランプを使用してから効率的に血管のシーリングが出来るようになりました。
血管のシーリングが完了して脾臓を拳上、摘出しているところです。
ほとんど出血はなく、無事脾臓の全摘出は終了しました。
今回のコロ君の脾臓の重量は894gありました。
特にこの時点で血腫を疑っておりましたので、脾摘出後の貧血が一番懸念されます。
脾臓を摘出した腹腔内ですが、特に周囲組織からの出血もなく、また腫大した脾臓が無くなった分、すっきりした感があります。
皮膚縫合が終了したところです。
麻酔から覚醒したコロ君です。
頑張りましたね。
摘出した脾臓は病理検査に出しました。
コロ君が入院中に脾血腫の診断が下りました。
腫瘍細胞は見つからないとのことでホッとしました。
1週間後の退院当日のコロ君です。
術後の貧血や播種性血管内凝固不全症候群(DIC)もなく、コロ君は無事退院して頂きました。
術後2週間が経過して抜糸のため、来院されたコロ君です。
退院後も体調は良好です。
縫合部も良好なので抜糸しました。
抜糸前と抜糸後の写真です。
摘出した脾臓です。
内部に血液を貯留しているため、暗赤色で膨満しているのがお分かり頂けると思います。
病理検査に提出するにあたり、メスで割を入れました。
メスを入れた瞬間に脾臓内の貯留した血液の血漿が勢いよく噴出しました。
脾臓の割面はこのように多量の血液を貯留しており、嚢胞の内面は浮腫を呈して血液の循環不全があったことを示しています。
下写真は病理検査の低倍率像です。
充血・うっ血や線維素析出により著明に拡張した複数の脾洞が認められます。
中等度の倍率像です。
脾洞の内皮細胞にも異型性細胞(腫瘍細胞)は認められません。
脾血腫は腹部への鈍性外傷や何らかの血管障害に続発して生ずる病変とされます。
今回、コロ君の血腫が何により生じたかは不明ですが、早急な処置を取れたのが良かったと思います。
脾臓の腫瘤性病変には腫瘍性(血管肉腫、リンパ腫、肥満細胞腫、組織球性肉腫、形質細胞腫)や非腫瘍性(脾血腫、結節性過形成、出血性梗塞など)の様々な物が含まれます。
結局、ある程度の脾臓の分類分けの見当がついたところで病理検査に出すことが肝要です。
そのためには外科的摘出が前提となることが多いでしょうから、ポイントは脾臓の腫大を早期に発見することに尽きます。
コロ君、お疲れ様でした!
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