スッポンモドキの皮膚病
こんにちは 院長の伊藤です。
本日ご紹介しますのは、スッポンモドキの皮膚病です。
そもそもスッポンモドキとはどんな生物なのか?というところから説明します。
スッポンと名のつくことからカメであることは明らかです。
しかしながら、全く別のカメに分類され、産卵以外は陸地に上がることのない完全水棲カメです。
英名ではpig-nose-turtle、日本名ではブタバナ・ガメと呼ばれてます。
分類はスッポンモドキ科スッポンモドキ属、分布はニューギニア南部・オーストラリア北部の河川・河口とされます。
スッポンモドキの最大の特徴は、最大甲羅長80㎝、体重22.5㎏に達する大型のカメです。
そのため、飼育環境の整備がとても重要で水質の衛生管理から水槽のレイアウトまで細かな配慮が必要とされます。
食餌は草食(野菜・果実)に近い雑食とされています。
全身の皮膚病、衰弱でスッポンモドキ(名称なし、23歳、体重5kg、性別不明)が来院されました。
皮膚炎が酷く、皮膚が剥離して痂皮を形成し、また痂皮が剥離して皮膚が潰瘍状態になるというプロセスを繰り返しています。
水槽ケースから出したスッポンモドキです。
ぐったりしており、全身状態はよろしくありません。
本来、活動性のあるカメですが頭を上げれない程に弱っています。
すでに食欲は全くなく、皮膚からは高度の細菌感染が認められました。
飼い主様宅では、30tの大きな水槽で飼育されているそうです。
おそらく30tの容量のある水槽であれば、この個体であれば余裕で回遊できると思われます。
水質に問題があり、細菌感染に至ったのではないかと思われます。
スッポンモドキは前肢はウミガメと同様にヒレの様になっています。
ヒレは泳ぐ度に水槽の壁に干渉するのでしょう、皮膚はびらん状態で赤くただれています。
甲羅の内側です。
甲羅の表面は発赤があり、甲羅内部では点状出血の疑いがあります。
爬虫類の場合、点状出血が現れると細菌やウィルスが血流を介して全身に及び敗血症に至っている場合が多いです。
レントゲン撮影を実施しました。
肺炎などの呼吸器の感染は認められません。
ニューキノロン系の抗生剤を注射します。
細菌感染による皮膚炎の治療では、外用薬の患部への塗布・薬浴・抗生剤の内服もしくは注射投与の手段を選択します。
今回のスッポンモドキは抗生剤の注射を連日で実施することと、イソジン等の体表部への塗布による消毒を継続することとしました。
同じ水槽内にもう1匹のスッポンモドキも同居しているそうなので、互いで攻撃して傷を広げている可能性もあります。
水棲カメの場合、さらに重要なポイントは、水質のPhや濾過器による濾過機能をチェックする必要があります。
スッポンモドキの場合は、完全に淡水棲種です。
餌の食べ残しや排泄物で水槽内の水はすぐに悪化してしまいます。
水質悪化した水槽水を飲用していれば、エロモナス等の細菌感染を引き起こすでしょうし、腎機能不全を招くこともあります。
このスッポンモドキは2004年、ワシントン条約のCITES2種に採択されています。
ワシントン条約とは絶滅の恐れのある野生の動植物の国際的商品取引を規制する条約のことです。
CITES1種に該当するのは、ウミガメ全種やガラパゴス・ゾウガメやオオサンショウウオ等が挙げられます。
スッポンモドキの場合は、今すぐに絶滅の危機はないにせよ要注意であるとの認識がされてるとのことです。
以前は、ペットとして多くの個体が日本へ輸入されていたようですが、最近ではその数は激減しています。
2008年には名古屋港水族館が、世界で初めてスッポンモドキの飼育下繁殖に成功しています。
このスッポンモドキ君も何とか回復して欲しいと思います。
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