ハリネズミの扁平上皮癌
こんにちは 院長の伊藤です。
本日ご紹介しますのは、ハリネズミの扁平上皮癌です。
ハリネズミは口腔内腫瘍の発生率が非常に高い動物です。
口腔内腫瘍は扁平上皮癌が経験的に最も多いと思いますが、他に悪性黒色腫、扁平上皮乳頭腫、骨肉腫なども報告されています。
ヨツユビハリネズミのホッチちゃん(2.5歳、雌、体重265g)は口の中が腫れているとのことで来院されました。
右上・下顎に腫れがあり、口がしっかり閉じることが出来ない状態です。
綿棒を使用して口腔内を確認します。
下写真黄色丸は上顎部の歯肉に出来た腫瘤です。
腫瘤により、臼歯が内側に圧迫されて変位しています。
この腫瘤がはたして腫瘍なのか否かを確認するために細胞診をすることにしました。
患部に注射針を穿刺して細胞を吸引します。
ついで右下顎部の腫瘤ですが、患部には膿が瘡蓋のように張り付いています(下写真黄色丸)。
膿を注射針で剥離しているところです。
薄皮を剥がすように膿を外しました。
膿を剥がした後には、臼歯が脱落しており、歯根部の顎の骨まで融解しているのが推定されます。
この部位についても同じく細胞診を実施しました。
下顎の患部については、非常に脆弱で注射針の穿刺でしつこく出血が続きます。
そのため、下写真のように止血剤を染み込ませた綿棒で患部を圧迫止血してます。
出血は止まりました。
ホッチちゃんは食欲が低下しているとのことで、右上下顎の腫瘤による疼痛が激しいものと思われます。
細胞診の結果が下写真です。
細菌感染(下写真黄色丸の細かな黒い点が細菌です。)を伴う有核扁平上皮細胞が認められます。
下写真黄色丸は扁平上皮細胞の中で核が大型です。
細胞質が好塩基性であり、強い青紫色を呈してる点から細胞の角化が進行しているのを示してます。
加えて核小体の大型化、核膜の不整もあり、異型性(正常では見られない細胞の形態変化)を示しています。
結果、扁平上皮癌であることが判明しました。
口腔内の腫瘍は外科的に完全摘出することが理想です。
しかしながら、歯槽骨にまで腫瘍が及んでいたりすると切除は困難となります。
特にハリネズミのように小さな動物では、犬で一般に実施される顎骨切除は厳しい状況となります。
腫瘍を可能な限り切除し、切除後に炭酸ガスレーザーで患部を蒸散させて治療する臨床医もいます。
腫瘍細胞をレーザーで全て切除出来ればよいのですが、どちらかと言えば腫瘍の大きさを部分切除で小さく減量して、生活の質を向上させる程度に留まります。
外科的切除が不可能であれば、放射線療法や化学療法があります。
犬ではこれらの治療は効果を示していますが、ハリネズミにおいてはまだ良く分かっていません。
また、犬ではこの扁平上皮癌に対して、ピロキシカム(cox-2阻害薬)が抗腫瘍作用を示すとの報告があります。
当院では、試験的にこのピロキシカムを投薬して経過を診ていますが、明らかな抗腫瘍効果は確認できていません。
下写真は、ピロキシカムを2週間投薬した後のホッチちゃんです。
下顎の口腔内腫瘍はさらに増大して来ています。
残念ながら、ホッチちゃんは口をしっかり閉じることが出来なくなっています。
固形の食餌もしっかり咀嚼出来なくなり、流動食で対応せざるを得ない状況です。
扁平上皮癌は歯槽骨へ浸潤していきますので、顔面の骨が変形していきます。
上顎部の扁平上皮癌の場合は、眼球が眼窩から突出する場合もあります。
いづれにせよ、強制給餌による食餌管理と疼痛管理でホッチちゃんの治療を進めさせて頂いてる現状です。
残念ながら、現時点でWHS(ふらつき症候群)と並んで、扁平上皮癌は根本的治療が出来ない難しい疾病です。
扁平上皮癌の初期のステージであればまだレーザー治療で効果を上げられるかもしれません。
口の中が腫れてきたと感じたら、早めに受診されることをお勧めします。
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