こんちは 院長の伊藤です。

本日ご紹介しますのは、ウサギの皮膚に出来た、いわゆるしこりです。

以前、犬の線維付属器過誤腫についてコメントしましたので興味のある方は、こちらをクリックして下さい。

ミニウサギのマリオ君(10歳5か月齢、雄)は尻尾の近くに腫瘤が認められるとのことで来院されました。

この腫瘤は1年半ほど前から出来ていたのですが、当初1㎝くらいのものが現在は4㎝近くにまで大きくなってます。

事前に細胞診で上皮性の腫瘍(毛芽腫)の可能性があると判断しています。

ただ、場所的に排便・排尿の障害になり、座る姿勢にも負担が認められるようになって来ましたので、飼主様としても切除を希望されました。

問題は、マリオ君はすでに10歳半という超高齢ウサギである点です。

ヒトの年齢に換算すれば、100歳近い年齢と言えます。

ウサギの麻酔管理は犬猫に比較しても難しいのですが、さらに高齢であるほどに麻酔の難易度はアップします。

それでも日常生活の質が低下しますので、外科的に腫瘤を摘出することとしました。

事前に血液検査(下写真)を行い、肝機能・腎機能などをチェックしました。

マリオ君は血液学的には、麻酔に耐えられる主要臓器を有していることが判明しました。

下写真の黄色丸が腫瘤です。

患部を分かりやすくするためにバリカンで剃毛します。

下写真の赤矢印は尻尾を示してます。

私がつまんでいるのが患部の腫瘤です。

皮膚から突出して、ぼんぼりの様にぶら下がっています。

今回は極力、短時間で手術を終了させるためにイソフルランのガス麻酔で導入します。

次第に導入麻酔の効果が出て来ました。

仰向けの姿勢となり、生体情報モニターの電極を装着し、慎重に麻酔を進めて行きます。

腫瘤に栄養を運ぶ血管が、腫瘤付け根の茎の部分を通っているため慎重にメスを入れます。

思いのほか、出血がありましたので切開部位をバイポーラ(電気メス)で止血します。

念のため、バイクランプで茎の中心部の血管をシーリングします。

最後にバイポーラで切断します。

皮膚を縫合して手術終了です。

メスを入れて15分です。

マリオ君が無事、覚醒するまで慎重に対応します。

モニター上の数値(心拍数、酸素分圧など)も問題ありません。

10分程でマリオ君は完全に覚醒出来ました。

高齢のため麻酔は神経質に対応しましたが、無事生還出来て良かったです。

今回、摘出した腫瘤です(背側面)。

腹側面です。

切断面が見えます。

腫瘤の中央部にメスを入れてみました。

メスによる断面です。

腫瘤内には、嚢胞が形成されており、その中身がなんと被毛(写真黄色矢印)でした。

被毛を拡大した写真です。

病理検査にこの腫瘤を出しました。

診断名は線維付属器過誤腫とのことでした。

下が病理標本の写真(低倍率)です。

中拡大像です。

この腫瘤は、異型性の無い線維結合組織(腫瘍ではない)によって構成されていました。

下写真黄色矢印は多巣性に密生した毛包を示します。

過誤腫とは一般に腫瘍と奇形の中間的な性格の病変とも言われています。

線維付属器異形性とも呼べる病態で、尻尾の横の皮膚に出来た腫瘤の中に皮膚の組織が形成(過誤腫)されたようです。

その腫瘤内の毛包が発毛を始め、今回のように次第に腫瘤は大きくなっていったと考えられます。

過誤腫の構成細胞は周囲の正常細胞と同一であり、成熟した細胞で占められますが、過剰に増殖していく傾向を持ちます。

この線維付属器過誤腫は非腫瘍性・良性増殖です。

慢性的な物理的刺激や外傷などでも起こります。

今回の腫瘤は、お尻の周辺に生じたものですから、床材との摩擦が腫瘤増大のきっかけになったのかもしれません。

外科的に完全に切除することで完治されます。

高齢のため全身麻酔が心配されましたが、問題なく手術は終わり、安心しました。

マリオ君、お疲れ様でした!

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