ウサギの腹壁ヘルニア
こんにちは 院長の伊藤です。
毎年4月に入りますと狂犬病ワクチン接種、フィラリア予防、春の健康診断と犬の予防医学的イベントで忙殺され、ブログ更新が途絶えて申し訳ありません。
本日ご紹介しますのは、ウサギの腹壁ヘルニアです。
所定の場所から臓器が逸脱することをヘルニアと言います。
腹壁ヘルニアは腹筋が裂けて、腹腔内臓器が皮下組織内に飛び出す病態を指します。
ネザーランドドワーフのゆきちゃん(1歳9か月齢、雌、体重1.2kg)は血尿が出て、食欲不振で来院されました。
下腹部が血尿により、広範囲に汚れています。
全身状態も不良で、食欲不振による削痩、高度の脱水が認められました。
ペットシーツに血尿が認められます。
レントゲン撮影を実施しました。
下腹部に白く描出されているのは膀胱です。
意図して膀胱に造影剤を投与したのではありません。
スラッジと呼ばれる尿中に多量のシュウ酸カルシウムや炭酸カルシウムが排出されて出来る汚泥尿が、膀胱内に存在して白く描出しています。
スラッジは膀胱結石ではなく、高濃度のカルシウム尿と認識して下さい。
尿中の多量のカルシウム結晶で造影剤のように白く映し出されています。
問題は、このスラッジで描出されている膀胱が腹腔内に存在するのではなく、皮下組織にあるということです。
つまり、腹筋が裂けて骨盤腔内の膀胱が飛び出して、皮下組織内にあるということです。
ゆきちゃんは腹壁ヘルニアを発症していることが判明しました。
このスラッジによる排尿障害が腹壁ヘルニアの原因であったと思われます。
どろどろの尿が尿道を詰まらせて、加えて膀胱が膨満状態になり、排尿のため腹圧を常時かけることで腹筋が一部裂けたのだと推察されます。
血尿は、膀胱内のスラッジが膀胱粘膜を傷害して出血した結果と思われます。
血液検査でもCPK値(筋肉・神経の炎症を表す)が330U/l、CRP値(炎症性蛋白)1.2㎎/dlと高値を示している一方で、WBC(白血球数)は5600/μlと低値になっている
ため、長い期間腹壁ヘルニアになっており免疫力の低下や慢性の細菌性膀胱炎の状態にあると考えられます。
腹筋による膀胱の絞扼を解除することが最優先として手術を実施することとなりました。
下写真黄色丸は腹壁ヘルニアで膀胱が皮下に降りて、皮膚が膨隆してます。
膀胱に傷を与えないように慎重に皮膚を切開します。
皮下脂肪を剥がしていくと膀胱が出現します。
下写真が膀胱です。
膀胱壁は厚く肥厚しており、内部で出血しているのが分かります。
膀胱を触診すると尿が貯留してますので、吸引できる限り注射器で尿を吸い出します。
さらに膀胱内に結石ほどの硬さはありませんが、粗大な塊が触知されましたので硬性メスで膀胱を切開します。
注射器の針穿刺では吸引できなかった粘稠性の高い尿(スラッジ)を直接吸い出しています。
最小限に膀胱切開を施します。
膀胱内容物を圧迫して出しているところです。
芯部にある程度の硬度を有するスラッジが認められます。
基本的にはスラッジは脆く、力を込めると形はすぐに潰れてしまいます。
膀胱内を生理食塩水で洗浄します。
膀胱粘膜は出血で暗赤色を示しています。
膀胱内を綺麗に洗浄した後に膀胱壁を縫合します。
縫合部からの尿漏出の無いよう合成吸収糸で膀胱の縫合を完了しました。
腹壁ヘルニアの原因となっている腹筋、腹膜の裂孔部を確認しました(下黄色矢印)。
裂孔部をさらに切開して新鮮創を作り、縫合します。
膀胱が余裕を持って腹腔内に戻せるようにします。
次いで、しっかりと腹膜・腹筋を縫合します。
腹筋の縫合が終了しました。
最後に皮膚を縫合して手術は終了です。
ゆきちゃんは全身状態が良くなかったため、麻酔覚醒までに時間がかかりました。
術後数時間経過したゆきちゃんです。
点滴をして痛々しそうです。
食欲が出てきて、排尿がスムーズに出来るまで注意が必要です。
下は膀胱内から取り出したスラッジです。
水分が蒸発するとほぼ尿石(カルシウム)と同じ硬さになりました。
今回のようなスラッジの形成を抑えていくためには食生活に留意して頂く必要があります。
十分な水分と運動です。
水分を積極的に飲まないウサギもいます。
そんな個体には、水分を多く含みカルシウム含有量の少ない生野菜(レタス、セロリ、ニンジン、ブロコッリーなど)を与えるのも良いと思います。
注意いただきたいのは、カルシウム含有量の多い生野菜である小松菜、チンゲンサイ、アルファルファ(牧草)は与えないようにして下さい。
ゆきちゃん、お疲れさんでした!
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