ハリネズミの平滑筋肉腫(その2)
こんにちは 院長の伊藤です。
本日ご紹介しますのは、ハリネズミの平滑筋肉腫です。
平滑筋とは消化器や呼吸器,泌尿器,生殖器,血管などの壁にあって,緊張の保持と収縮を司る筋肉です。
意志とは無関係に働くので,不随意筋の一種です。
そんな平滑筋ですが、悪性の腫瘍(肉腫)として発症する場合があります。
過去にハリネズミの平滑筋肉腫として記事を載せてますので、宜しかったらこちらもクリックして下さい。
ヨツユビハリネズミのもぐちゃん(雌、1歳8か月齢)は陰部周囲が腫れているとのことで来院されました。
下写真黄色丸は出血を伴った外陰部周囲の腫瘤です。
ハリネズミは下腹部の皮膚の状態を診るにあたり、緊張・興奮により体を常時丸くしますので鎮静をかけなくてはならないことが多いです。
もぐちゃんの腫瘤をパッと見た感じでは膣脱の可能性があると思われました。
以前、当院のHPにてハリネズミの膣脱について記事を載せています。
興味のある方はこちらをクリックして下さい。
もぐちゃんが膣脱の場合、抗生剤や消炎剤の投薬で膣が戻る場合がありますので、ひとまず内科的治療で経過を確認させて頂きました。
2週間以上経過したところで、患部の縮小もなく,さらに腫大傾向があるとのことで外科的に切除することとなりました。
イソフルランで麻酔導入を実施します。
維持麻酔に切り替えます。
もぐちゃんの陰部周辺は出血で汚染されています。
外陰部全体が腫脹しているように見えます。
腫瘤を裏側から見た画像です。
腫瘤を自傷したり、床材との干渉や体表の針が刺さったりなどで患部は出血、痂皮形成を繰り返してきたことが伺えます。
患部を綺麗に洗浄消毒します。
洗浄後の患部です。
この角度から見ると膣脱と言うよりは、外陰部を裏打ちするように内部から腫瘤が形性されている感があります。
この段階では、膣脱の可能性もあるとみており、卵巣子宮全摘出術を先に実施しました。
卵巣子宮全摘の模様は、今回の本筋ではありませんので簡単に流します。
腹筋を切開します。
子宮頚部を結紮してます。
子宮頚部をメスで離断します。
この段階で特に子宮頚部が腫脹していたり、頚部に腫瘍と思しき病変は認められません
下腹部の縫合は終了です。
下写真黄色丸は摘出した卵巣子宮です。
さて本題の腫瘤摘出です。
膣脱であれば、下写真の黄色矢印から膣部が突出するはずなのですが、外陰部自体(下写真黄色丸)が腫瘍で腫れ上がっています。
従って、膣脱は否定されました。
意識下では暴れて患部の詳細を確認することがハリネズミは非常に難しいため、全身麻酔下で詳細が確認されるケースは多いです。
外陰部の腹側面を牽引して露出し、皮膚を切開してから内部の腫瘤にアプローチすることとしました。
バイポーラ(電気メス)で切開・止血を慎重に行います。
ご覧の通りの細かな作業となります。
外陰部の皮膚を切開して行くと皮下に明らかな腫瘤(腫瘍)が認められました。
太い栄養血管に包まれた腫瘍組織です。
出来る限りマージンを取るようにして、外陰部の皮膚を外科鋏で切断します。
外陰部の皮膚を切除した跡の写真です。
摘出した腫瘍組織(赤色丸)と卵巣子宮(黄色丸)です。
切除後の外陰部の皮膚を縫合します。
縫合終了です。
全身麻酔を切って覚醒を待ちます。
覚醒したもぐちゃんです。
覚醒直後から歩行を始めました。
摘出した腫瘍です。
摘出した腫瘍を病理検査に出しました。
診断は平滑筋肉腫でした。
肉腫に相当する悪性腫瘍性病変です。
下写真は中拡大像です。
病巣部は不規則に錯綜しながら増生する平滑筋様の束状の腫瘍増生巣で構成されています。
下写真は高倍率像です。
卵円形核と好酸性細胞質を有する長紡錘形細胞が増殖しています。
細胞異型性は中等度で核分裂像が散見されます。
病理検査では切断面への腫瘍細胞の露出は見られないとのことですが、今後ももぐちゃんの局所再発のモニターは必要です。
術後2日目にもぐちゃんは退院して頂きました。
もぐちゃん、お疲れ様でした!
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