ウサギの悪性黒色腫(その2)
こんにちは 院長の伊藤です。
本日ご紹介しますのは、ウサギの悪性黒色腫です。
以前にもこの悪性黒色腫については、記事(ウサギの悪性黒色腫(Malignant melanoma))を載せています。
興味のある方は、こちらをクリックして下さい。
ミニレッキスのクリーム君(雄、2.9kg 9か月齢)は右耳の付根にかさぶたのような黒い塊が出来たとのことで来院されました。
下写真黄色丸が耳の付根に出来た腫瘤です。
一見して、出血後に生じた痂皮のように見えます。
しかし、黒色を呈する腫瘍(黒色腫、メラノーマ)の可能性を考慮する必要があります。
患部を針生検し、細胞診を行いました。
検査センターの結果は、メラニン色素産生細胞が認められ、悪性黒色腫の可能性も考えられるとのことです。
良性の皮膚メラノーマか悪性黒色腫なのか細胞診では確定ができないこと、もし悪性黒色腫であれば遠隔転移もあり得るのため、腫瘍が小さいうちに外科的摘出を行
うべきか、飼主様と話し合った結果、手術することとなりました。
悪性黒色腫であれば、肺野もしくは腹腔内に、現時点で転移がないかレントゲン撮影を行いました。
肺野の拡大像です。
こちらも同じく肺野の拡大像です。
まだ悪性黒色腫と確定は出来てませんが、腫瘍の全身への転移はありません。
結果、手術を希望されました。
耳介部を付け根から、全切除する方法が理想です。
しかし、技術的に困難な場所(耳介軟骨の処置、止血処置等)であること、切除後のクリーム君の審美的問題を考慮しなくてはなりません。
患部を切除後に術野を半導体レーザー(ラウンドプローブ)を使用して、蒸散することで腫瘍を加熱壊死させる方法を選択させて頂きました。
下写真は全身麻酔下のクリーム君です。
患部周囲を剃毛します。
電気メス(バイポーラ)と硬性メスを交互に使用して、患部周囲を切除していきます。
耳は非常に密に血管が走行しているため、ちょっとメスで血管に触っただけで派手に出血が起こります。
腫瘍の皮膚との接触面(基底部)をバイポーラで剥離します。
腫瘍の基底部は組織が黒変しているのが分かります。
腫瘍はこれで切除出来ました。
続いて術部を半導体レーザーのラウンドプローブで蒸散します。
ラウンドプローブの先端部は700℃の高熱となっています。
術野にプローブをあてているところです。
レーザーを熱源にして金属チップ先端を高熱に加熱し、過熱されたプローブ先端を組織に接触させ、腫瘍組織を気化させます。
体表部5㎜くらいならば無麻酔で蒸散が可能とされています。
以前、ウェルシュコーギーの顔面腫瘍をレーザーで蒸散した記事を載せています。
レーザーに関心のある方はこちらをクリックして下さい。
患部が高熱で炭化していくのがお分かり頂けると思います。
それでもじわじわと出血は認められます。
炭化した組織と出血している血液が混ざって、術野がタール状になっています。
念のため、患部の出血を抑えるため局所止血材(ヘモブロック)を付けます。
手術直後のクリーム君です。
麻酔から覚醒したクリーム君です。
出血は治まり、摘出患部には炭化した組織が瘡蓋の様に張り付いています。
患部の蒸散がうまくいけば、炭化した組織が剥離する頃には新しい皮膚が出来ていると思います。
摘出した腫瘍の表側です。
表皮面は広範囲に潰瘍化して、膿性滲出物が付着しています。
腫瘍裏面(基底部)です。
拡大像です。
メラニンが沈着して黒褐色になっている部分が認められます。
腫瘍の病理所見です。
病理検査の結果は悪性黒色腫でした。
低倍像です。
中拡大像です。
異型性を示す類円形・多角形・紡錘形の腫瘍細胞がシート状に配列しています。
下写真2枚は高倍率像です。
腫瘍細胞の細胞質内に少量のメラニン色素(茶褐色の色素)が認められます。
悪性黒色腫は、メラニン産生細胞(メラノサイト)由来の悪性腫瘍です。
過去の文献では、ウサギ190症例の皮膚腫瘍を解析したところ、悪性黒色腫は8例認められています。
また悪性黒色腫のウサギが肺や肝臓への遠隔転移が報告されています。
以上の点から、今後のクリーム君の経過を診ていく必要があります。
クリーム君、お疲れ様でした!
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