こんにちは 院長の伊藤です。

今回ご紹介しますのは、ヨツユビハリネズミの腫線維肉という腫瘍摘出症例です。

ヨツユビハリネズミのエンジン君(雄、2歳、体重412g)は包皮周辺が腫大し、他院にて治療を受けていました。

残念ながら改善することなく、当院を受診されました。

下写真黄色矢印にありますように、包皮の内部が腫大しています。

体を丸めると患部が口元に近づき、エンジン君も患部を自傷して出血(血尿?)もあるとのことです。

排尿もしずらそうです。

この腫瘤が腫瘍か否か、判定するために細胞診を実施しました。

下写真は針生検しているところです。

細胞診の結果は、上皮系の腫瘍(高分化型)であることが判明しました。

このまま、さらに患部が腫大してくると排尿障害も出てくるでしょうし、生活の質は落ちることが予想されます。

飼い主様の了解を頂き、腫瘍摘出することとなりました。

エンジン君にイソフルランで麻酔導入を行います。

維持麻酔に切り替えたエンジン君です。

全身麻酔が効いて来たところです。

下腹部の中央部の包皮が大きく腫大しているのがお分かり頂けると思います。

黄色矢印はペニスを示します。

本来ならば、ペニスは包皮の中に入っています。

包皮内の腫瘍がペニスを圧迫しているため、黄色矢印部のペニスは包皮内に完納することが出来ません。

赤矢印が腫瘍で内部が充実している包皮です。

状況によっては、包皮だけでなくペニスにも腫瘍が浸潤している可能性もあります。

排尿に関わる器官が腫瘍となると包皮・ペニス全摘出は不可能です。

そのため、術後に腫瘍細胞が一部残っていれば再発する可能性があり、生活の質を改善する目的の手術となることを飼主様にご了解いただきました。

術式としては、包皮に切開を入れて内部の腫瘍を摘出します。

尿道を保護するために、留置針の外套針を尿道カテーテルの代わりに挿入します。

モノポーラで包皮に切開を入れます。

慎重に包皮を剥離し、内部の腫瘍を傷つけないようにします。

綿棒で包皮と腫瘍の接着を鈍性に剥離します。

内部の腫瘍は血管に富んでおり、少し綿棒が接触しただけで出血します。

下写真の赤矢印が腫瘍本体、黄色矢印がペニスです。

電気メス(バイポーラ)で腫瘍の表面の出血を止血します。

太い血管については、バイクランプでシーリング処置を施します。

ペニスに腫瘍が一部癒着してるのが認められました。

腫瘍を摘出しました。

包皮の内部からの出血がじわじわとあるため、しっかりと止血します。

腫瘍摘出後の患部です。

包皮を縫合します。

ほぼ元の状態に縫合出来ました。

下写真の黄色丸が摘出した腫瘍で、縫合した包皮の傍らに置いてサイズを比較しました。

摘出した腫瘍(下写真)は病理検査に出しました。

全身麻酔から覚醒したエンジン君です。

病理検査の結果は線維肉腫という線維芽細胞由来の悪性腫瘍でした。

下写真は低倍率像です。

腫瘤内は出血や壊死が認められます。

中等度の病理像です。

線維性被膜形成は認められず、腫瘍は周囲の結合組織に軽度に浸潤しています。

高倍率像です。

腫瘍細胞は高倍率10視野あたり24個の核分裂像が確認され、腫瘍細胞の脈管浸潤像は認められませんでした。

ヨツユビハリネズミの軟部組織に発生する肉腫における予後や生物学的挙動については、まだ分かっていないことが多いです。

一般的には、軟部組織に発生する肉腫は局所再発性が高く、リンパ節や遠隔臓器への転移は低いと考えられています。

退院時のエンジン君です。

まだペニスは腫脹しており、包皮内に戻っていません。

術後、3週間後に抜糸を行っている写真です。

下写真の通り、ペニスは包皮内に完納しており、排尿もスムーズに出来ているそうです。

今回、ペニスを保護するために包皮を温存しましたので、再発を考慮しての十分な経過観察が必要です。

エンジン君、お疲れ様でした!

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