こんにちは 院長の伊藤です。

本日、ご紹介するのはヒョウモントカゲモドキの皮下膿瘍です。

皮下膿瘍とは、外傷等から皮下組織に入り込んだ細菌と免疫細胞との戦いで、免疫細胞が負けて壊死して膿に変わり、皮下に貯留した状態を指します。

皮膚側(外側)から見ると腫瘤という形で認められます。

哺乳類の皮下膿瘍は、最初はクリーム状の膿ですが、継時的にチーズ様(乾酪様物質)に変化し、硬化した後に吸収されます。

爬虫類の場合は、クリーム状の皮下膿瘍となる前に乾酪様化が早く起こるようです。

ヒョウモントカゲモドキのごまお君(雄、1歳10か月齢、体重57g)は下顎にこぶが来たとのことで来院されました。

1か月前に、左側下顎側面の皮膚に瘡蓋が出来、2週間前から下顎の腫瘤が増大してきたとの事です。

下写真の黄色丸が下顎の腫瘤を示します。

下写真の黄色矢印は腫瘤の外周を示しますが、皮膚が吻開しています。

腫瘤の一部を針生検して、腫瘤の中心部は膿瘍である確認をしました。

しかし、腫瘤の下顎に接している面にひょっとしたら腫瘍が形成されている可能性もあります。

加えて、ごまお君は脱皮の最中です。

陳旧化して、白く剥離した皮膚が認められます。

下顎に腫瘤が出来てから、全く食欲がないとのことで、腫瘍の可能性も考慮して全身麻酔下で外科的に腫瘤を摘出することとしました。

ごまお君に麻酔導入箱に入ってもらいます。

麻酔導入は完了です。

マスクを口吻部にかけてイソフルランで維持麻酔を実施します。

麻酔状態は安定しています。

下写真のアングルからは、この腫瘤が思いのほか大きいことが分かります。

腫瘤の付根の皮膚からメスを入れたいのですが、皮膚の欠損部があまりに大きくなり、皮膚縫合が不可能となります。

従って、吻開している皮膚を注意深く剥離して、腫瘤を摘出することとしました。

皮膚を牽引しながら、腫瘤を少しづつ剥離します。

次に滅菌綿棒で腫瘤を鈍性に剥離します。

綿棒で腫瘤外周をなぞる要領で皮膚、皮下組織から腫瘤を外すことが出来ました。

チーズというよりも消しゴムに近い硬度を有した孤立性の腫瘤といった感じです。

腫瘤を取り除いた皮下には、下写真黄色矢印が示す乾酪様物質の残存が確認されました。

この部位は左側下顎部の病変部につながっています。

この栓子様の膿瘍を摘出します。

下写真の指で押さえている部位が、左側下顎にあたります。

下写真黄色丸は摘出した栓子様の膿瘍です。

術部はその後、生食で洗浄し抗生剤を滴下します。

下写真のピンセット先端が示しているのが、左側下顎部の病変部です。

ごまお君はデュビアなどの生餌を与えられており、口腔内にマウスロットを疑う所見が認められています。

具体的には、左下顎歯肉内側から歯槽骨を貫通する瘻管です。

残念ながら、今回はその瘻管部の接写撮影が綺麗に取れず、掲載できませんでした。

生餌に咬まれて雑菌の感染を受けた歯肉部から下顎外側へ膿瘍が形成され、次いで下顎底部全面に膿瘍が広がったと推察されます。

皮膚をスムーズに縫合できるか、縫い代を検討しています。

下写真の右に置いてあるのは、摘出した膿瘍です。

切開した皮膚の創面を縫合しやすいようにトリミングします。

5-0のナイロン糸で縫合していきます。

縫合は完了です。

下写真黄色丸の病変部周囲の下顎骨は腫大しており、瘻管が生じた部位の骨増生が進行していると思われます。

細菌感染で下顎骨が融解した後の骨増生です。

おそらくこの腫瘤化した下顎骨はこぶとして残るでしょう。

麻酔から覚醒し始めたごまお君です。

下顎の疼痛でごまお君は現在、拒食中です。

しばらく生餌の捕食は中止して頂き、流動食で対応してもらいます。

摘出した膿瘍の塊を確認したところ、腫瘍細胞は認められませんでした。

爬虫類のマウスロットでは歯肉の炎症のみならず、歯槽骨にまで炎症・骨融解が及ぶケースもあること、生餌の給餌には注意が必要です。

ごまお君、お疲れ様でした!

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