鳶の多骨性過骨症及び変形性関節症
こんにちは 院長の伊藤です。
本日は鳶(とび)の話です。
鳶とはタカ目タカ科に属する猛禽類の一種です。
上昇気流に乗って、輪を描きながら上空へ舞い上がることで知られています。
鳥は、発情の関連でホルモン分泌のバランスが崩れて、結果としてカルシウム代謝障害を引き起こします。
カルシウム代謝障害に多骨性過骨症(Polyostotic hyperostosis、略してPH)があります。
本日は、このPHに端を発し、変形性関節症から起立不能に陥った症例です。
鳶のチャカちゃん(雌、6歳、体重950g)は左脚に力が入らないとのことで来院されました。
チャカちゃんは遥々、中央アジアのウズぺキスタンから日本にやって来た鳶です。
チャカちゃんは既に仰向けかうつ伏せの姿勢しか取れない状態になっています。
左脚を触診しますと足根関節(足首)の可動が出来ない状態です。
疼痛感が伴っており、足根関節は著しく腫脹しています。
骨折の場合は、触診で骨折部の軋轢音やぐらつきを感じますが、足根関節周辺の骨折は感じられません。
しかしながら、足根関節は棒の様に硬くなっており、柔軟な関節運動は不可能です。
下写真の黄色丸が左脚の足根関節です。
直ぐにレントゲン撮影を実施しました。
下は、レントゲンの結果です。
特に両脛骨中に骨髄の不透化(白くなる)像(下写真黄色矢印)が認められました。
飛行する生物である鳥には、軽量化のために一部の骨に、骨髄がなくスカスカになっている含気骨(がんきこつ)が存在します。
含気骨には、椎骨・肋骨・上腕骨・鳥口骨・胸骨・坐骨・恥骨などが挙げられます。
この含気骨は気嚢や肺につながっています。
一方、骨格の中心となる長骨(橈尺骨、脛腓骨、大腿骨など)は非含気性の骨で骨髄部があります。
左足根関節を黄色丸で示します。
上の黄色丸(足根関節)の拡大下写真です。
足根関節が変形しており、一部は吸収されています。
骨膜、骨皮質には炎症像が認められ、骨棘が形成されています。
いわゆる変形性関節炎に罹患しています。
側臥の写真像です。
脛足根骨と足根虫足骨をつなぐ足根関節が消失しています(下写真黄色丸)。
触診する限りでは、足根関節は大きく腫大している一方、関節の可動性は認められません。
レントゲン像では軟骨組織は透過されるため、欠損してるように見える場合があります。
吸収された関節部は、既に軟骨組織に置換されているかもしれません。
鳥類は、発情が起こり、ついで産卵の2週間くらい前から卵殻形成用のカルシウムが骨に蓄積を始めます。
ところが、発情回数が多く卵を産まないでいると、卵殻形成用のカルシウムが骨の中に残ることで前述のPHとなります。
結果、骨の柔軟性は失われて硬化していきますから、骨折しやすくなり関節部は変形性関節炎を引き起こす場合があります。
チャカちゃんは慢性発情が原因で、PHから変形性関節症になったものと考えられます。
変形性関節炎を完治させることは不可能です。
変形性関節症の治療は、消炎鎮痛剤を投薬して疼痛管理を行います。
今回の疾病の基になったと思われるPHについては、過発情を制御するのが理想です。
発情抑制のために黄体ホルモン製剤、抗エストロゲン剤、Gn-RH誘導体を使用します。
しかし、発情抑制が上手くできても一旦、沈着したカルシウムは消失することはなくて症状の緩和や病状の制限に留まることが多いです。
鳶などの猛禽類については、発情抑制剤の薬用量が不明のため、投薬のリスクを考慮して消炎鎮痛剤で対応させて頂きました。
今後、チャカちゃんの脊椎に変形が生じた場合、後躯麻痺や排尿・排便障害が起こらないか経過観察が必要です。
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