猫の乳腺腫瘍
こんにちは 院長の伊藤です。
本日ご紹介しますのは、猫の乳腺腫瘍です。
これまでにも、日常的に猫の乳腺腫瘍の外科的摘出は実施してきましたが、ブログにはまだご紹介していませんでした。
腫瘍摘出術の中で最も多いのが乳腺腫瘍(約10.4%)と言われます。
乳腺は複合管状胞状のアポクリン腺で、猫の場合は乳頭は4対とされます。
猫の乳腺腫瘍の80~96%は悪性腫瘍(犬は約50%)とされています。
また、初診時に肺やリンパ節への腫瘍転移例は90%近くになるとの報告もあります。
加えて、腫瘍を摘出しても66%の猫で再発が認められるとの報告もあります。
猫の乳腺腫瘍は、犬のそれと比較してシビアに捉える必要があります。
猫のうららちゃん(雑種、6歳8か月、雌、体重4.8kg)は乳腺にしこりがあるとのことで来院されました。
触診すると右側第3乳房から第4乳房にしこり(直径3㎜)が2つ認められます。
他の乳腺及び周辺組織には腫瘤は認められませんでした。
リンパ節にも転移はありません。
レントゲン撮影を実施したところ、肺野への腫瘍転移もありませんでした。
猫の乳腺腫瘍のTNM分類・臨床病期によりますと、うららちゃんの場合は原発病巣の大きさが2㎝未満であること、所属リンパ節(鼠径リンパ節)への浸潤がないこと、
肺などへの遠隔転移がないことからステージⅠの臨床病期であることが分かりました。
この臨床病期はステージⅠからⅣまであります。
遠隔転移が認められないステージⅢまでは、所属リンパ節の同時廓清を含めた片側乳腺全切除による外科的切除を第一選択とします。
そして、遠隔転移が認められたステージⅣの場合は、術後に化学療法を併用します。
うららちゃんの場合は、ステージⅠと言う初期のステージであり、腫瘍及び第3,4乳房の部分切除で対応する方針に決めました。
飼い主様の了解のもと、外科的に腫瘍を摘出することとなりました。
うららちゃんに麻酔の前投薬を実施します。
鎮静が効いて来たところで、バリカンで剃毛処置を実施します。
切除する部位をマジックで記しました。
皮膚を硬性メスで切開して行きます。
電気メス(バイポーラ)で止血と切開を同時に行います。
犬と比較して猫は、乳腺と皮下脂肪の境界面がはっきりしないことが多いため、慎重に切除していきます。
切除後の皮膚欠損の状態です。
欠損部が広い程に、皮膚に過度の緊張をかけて縫合する必要があります。
皮下組織を合成吸収糸で縫合し、緊張を軽減します。
皮下縫合が終了したところです。
皮膚縫合が終了しました。
縫合部が広範囲に及びました。
全身麻酔から覚醒したうららちゃんです。
乳腺腫瘍の発生は、犬同様に早期の卵巣子宮摘出手術をすることで予防が出来ます。
猫の6か月齢以前、7~12か月齢、13~24か月齢時に卵巣子宮摘出手術を実施した場合の乳腺腫瘍の発生率は、9%、14%、89%と報告されています。
24か月齢以上では、避妊手術による乳腺腫瘍の予防効果は無効とのことです。
猫の乳腺腫瘍では、原発腫瘍の大きさやリンパ節浸潤で、ある程度の術後の予後が予想できます。
原発腫瘍の大きさが3㎝より大きい場合は、術後の生存期間中央値がや約5~12か月、加えてリンパ節浸潤のない症例では生存期間が18か月、リンパ節浸潤がある場合は6か月という報告があります。
前述したTNM分類の臨床病期別の予後では、ステージⅠは29か月、Ⅱは12.5か月、Ⅲは9か月、Ⅳは1か月の生存期間との報告もあります。
うららちゃんの手術は無事終わりましたが、今後乳腺腫瘍の転移、再発を慎重に経過観察していく必要があります。
うららちゃん、お疲れ様でした!
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