こんにちは 院長の伊藤です。

今回は、今年5月に21歳の誕生日を迎えたチンチラのご紹介です。

一般に言われるチンチラの平均寿命は10~15歳です。

ギネスの長寿記録はなんと29歳8か月齢とのことです。

当院では、このチンチラちゃんが病院始まっての最長老となります。

チンチラに限らず、齧歯目の動物は高齢になると不整咬合や胃のうっ滞などの疾病が絡んできます。

チンチラのコットンちゃん(6月現在21歳と17日齢、雌、体重460g)は、口腔内の涎で口周りの被毛が汚れているとのことで来院されました。

以前から、定期検診で診せて頂いてる患者様ですが、チンチラはウサギよりも不整咬合の調整が微妙で困難な動物です。

実際、今回の診察の1~2か月前から右下顎第1,2前臼歯の歯棘が伸張して、舌へ干渉を起こしており、歯の調整を度々実施してきました。

当院では、基本的に全身麻酔を行わずに歯棘をカット、研磨を施して不整咬合の調整をします。

ウサギレベルの口腔内サイズであれば、問題ないのですがチンチラはさらに一回り以上小さいので、口腔内に開口器やその他の器具を無麻酔でセッテイングするのは限界があります。

ヒトの歯科医のように咬み合わせのチェックを患者の意志で確認出来ると良いのですが、勿論、不可能です。

結局、微妙な咬合調整は麻酔下で実施するしかありません。

しかしながら、21歳という高齢のため麻酔は非常にリスクを孕んでいます。

飼い主様の強いご要望もあり、麻酔下での不整咬合調整をすることとなりました。

私自身も21歳のチンチラの全身麻酔は初体験となります。

基本は最短時間で確実に歯科調整することです。

麻酔前の入念な準備が必要です。

まずは、レントゲン撮影を行いました。

コットンちゃんの口腔内を確認したところ、以前と同様、右下顎第1.2前臼歯が湾曲・棘状で過長かつ舌干渉しているのが分かりました(上写真黄色丸)。

年齢を考慮すれば、不整咬合を初めとして根尖病巣も認められるのは当然のことです。

無麻酔での臼歯調整は、やはり限界がありますので全身麻酔を実施することになりました。

コットンちゃんの肺を少しでも酸素化させて、麻酔導入をスムーズにするためICU内で40%酸素を吸入します。

数時間ICU内で過ごしてもらい、これからイソフルランで麻酔導入します。

下写真黄色丸がコットンちゃんの流涎で乾燥・毛玉になっている被毛です。

麻酔導入箱にてイソフルランを流入します。

高齢でもあるため、麻酔導入は速やかに達成されました。

次に鼻に自家製のマスクを当てて、維持麻酔を行います。

口腔内は涎で一杯となっているため、綿棒で掻き出しています。

頬を拡張する器具を挿入します。

口腔内の写真は、光源が入れずらいこととフォーカスを合わせる対象物が小さすぎることで極めて撮影が困難です。

以下に載せる写真は、焦点がぼけていて見ずらい点があるかもしれませんがご了解ください。

前出のレントゲン像で、黄色丸で囲んでいた右下顎第1,2前臼歯が変形して棘状(下写真黄色矢印)になっているのがお分かり頂けると思います。

コットンちゃんをこの姿勢で維持し、過長の歯棘を切断・研磨します。

開口器を装着したところです。

臼歯カッターで歯棘を切断します。

カットした歯棘の一部を黄色丸で囲みました。

何ヶ所も歯棘をカットし、上下の臼歯の咬み合わせがスムーズになるように調整します。

新たにカッターで離断した歯棘を黄色矢印で示します。

この後、切断した臼歯の断面をヤスリで研磨処置します。

全ての処置後の口腔内です。

肉眼で見る限りは綺麗に咬合出来る様になったと思います。

この姿勢は辛そうに見えるかもしれませんが、呼吸する上ではウサギ、チンチラ、モルモットなどの齧歯目はこの仰け反る姿勢(スターゲージング)は呼吸が一番

楽な姿勢とされます。

離断した歯棘を黄色丸で囲みました。

無麻酔で開口する方法では、これほど詳細にわたる調整は難しかったと思います。

さて、処置は無事終了したコットンちゃんですが、麻酔から安全に覚醒して頂けるかが心配なところです。

イソフルランを切って、酸素吸入をしているコットンちゃんです。

体温も麻酔で低下しますので、常時温湯パックとヒーターで温めて対応してます。

既に意識は戻っています。

覚醒後、落ち着いてから再びICUに戻ったコットンちゃんです。

処置は終了し、無事生還出来て良かったです。

歯の処置3か月後のコットンちゃんです。

その後の歯のコンデションは良好で、以前のように流涎で悩まされることはないようです。

そして、この来院日の数日前にコットンちゃんは21歳の誕生日を迎えられました。

ウサギに比べると比較的長寿のイメージが強いチンチラです。

もともとタフな動物だと思いますが、10歳を過ぎても大きな病気ひとつ罹らずにいる個体も多いです。

その一方で、歯科疾患や食滞に一旦なると完治するのに長期戦になるケースが多い動物種でもあります。

特に歯科疾患となると口腔内が狭く、その一方で咽頭までが長いのでアプローチが非常に難しいです。

ウサギ用の歯科器具では限界を感じており、オリジナルのチンチラ用器具の開発を考えてます。

21歳を無事迎えられたのも、ひとえに飼主様の愛情の賜物です。

コットンちゃん、さらに長生きして周りの人たちに元気を与えて下さいね!

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