こんにちは 院長の伊藤です。

本日ご紹介しますのはチンチラの去勢手術です。

犬、猫においては去勢・避妊手術は一般的に認知されるところですが、まだチンチラの去勢・避妊手術を実施している病院は少数といえます。

勿論、この手術の目的は不妊です。

カップリングして相性が良いとチンチラは繁殖力が高いため、不妊手術は必要となります。

雌の場合、避妊手術をしていないとするとシニア世代になり、子宮蓄膿症(興味のある方はこちらをクリックして下さい)、子宮水腫、子宮平滑筋肉腫等の罹患率が上昇します。

上記の疾病は、場合によっては死亡に至る場合もあります。

そのため、産科系疾患を予防するためにも避妊手術は意義があります。

雄の場合は、ウサギのようにシニア世代(5歳以降)で頻発する精巣腫瘍は、私は遭遇した経験はありません。

しかし、チンチラの寿命が10年から20年近くに伸びつつある事から、あまり目にしていない泌尿器系の疾病が今後、出てくる可能性があります。

加えて、性的に成熟を迎えるとチンチラは群れを守ろうとして縄張り意識が出て来ます。

場合によっては、飼主様に攻撃性を持つに至るケースもあるでしょうから、去勢を施すことで性格をマイルドにすることが可能です。

本日は、どんな感じでチンチラの去勢手術が行われるかを説明させて頂きます。

今回、チンチラのトトロ君(雄、3歳)は去勢を希望して来院されました。

全身麻酔下での手術となりますので、トトロ君に麻酔導入箱に入って頂きます。

イソフルランを流し、麻酔導入が効果を表したところです。

次にトトロ君を導入箱から出して、ガスマスクを口周りにあててイソフルランによる維持麻酔を行います。

メスを入れる部位をバリカンで剃毛します。

心拍数、呼吸数、血圧、血中酸素濃度などをモニタリングしながら手術に臨みます。

ペニスの付根に紙テープで腹部を抑え込んでいるのは、精巣が腹腔内頭側に潜りこまないよう定位置に保つためです。

チンチラの特徴として、鼠径輪(精巣の精管・精巣動静脈が腹腔内へ入っていく孔)が開口しており、陰嚢がありません。

そのため精巣は絶えず可動する特徴を持ちます。

なお鼠径輪については、こちらをクリックして下さい。

精巣にアプローチするために皮膚に切開を加えます。

皮膚を切開した後、筋肉層を切開します。

鉗子で筋肉層を広げます。

精巣を包む総鞘膜を切開します。

これで精巣が露出されました。

下写真の黄色矢印は精巣、青矢印は蔓状静脈叢、ピンク矢印は精巣動静脈を示します。

精巣を包んでいる総鞘膜と蔓状静脈叢を電気メスで分離します。

下写真は完全に総鞘膜から精巣が分離された状態です。

下写真の矢印の色は上記写真と同じ部位を示し、オレンジ矢印は精子の通る精管を示します。

精巣動静脈を縫合糸で結紮します。

2か所ほど結紮を実施します。

次いで精管を結紮します。

精巣動静脈と精管をバイクランプでシーリング後に切断します。

切断端は腹腔内へ戻します。

下写真の黄色矢印は腹筋の断端を示します。

この腹筋を縫合します。

筋層の縫合は終了です。

下写真は、両側の精巣摘出・筋層縫合が終了したところです。

皮膚を縫合しました。

手術終了です。

皮下輸液します。

麻酔から覚醒したトトロ君です。

傷口はこれくらいの大きさです。

術後2週間で抜糸した直後の患部です。

術後の経過は良好です。

当院では、このような流れでチンチラの去勢手術を実施しております。

去勢手術は手術当日の午前中に来院して頂き、当日の午後退院という形でお願いしてます。

なおチンチラの避妊手術は一日入院という形です。

避妊手術の詳細は、また改めて掲載します。

トトロ君、お疲れ様でした!

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