こんにちは 院長の伊藤です。

本日ご紹介しますのは、チンチラの鼻を咬傷の傷で呼吸不全となり、結果食滞(消化管内ガス貯留)となった症例です。

チンチラのオレオ君(2歳、雄、体重500g)は一週間ほど前に同居している他のチンチラに鼻を咬まれ、鼻腔内から膿が出始めたとのことで来院されました。

下写真の黄色丸は咬まれた鼻です。

鼻腔内からジワジワと膿が出ています。

鼻の正面(鼻鏡)は鼻汁と痂皮(かさぶた)で鼻は詰まり気味です。

チンチラに限らずウサギ、モルモットたちは鼻呼吸が基本の齧歯目の動物です。

何らかの原因で鼻呼吸が出来なくなると重篤な症状になります。

オレオ君は鼻呼吸が満足に出来ないため、口呼吸をするようになっています。

いわゆる開口呼吸になりますと、肺に行くよりも食道を介して胃の方に回る空気が多くなります。

結果として消化管は空気で鼓張し、胃腸蠕動は停滞し、食欲廃絶となり全身状態は不良となります。

オレオ君の全体像ですが、下写真をご覧いただけると腹が誇張しているのがお分かり頂けると思います。

上から見た写真です。

腹囲が腫れています。

食欲は既に無くなっており、被毛の艶はなくなり、所どころに脱毛があります。

レントゲン撮影を実施しました。

下写真で胃・盲腸にガスが停留しているのが分かります。

上写真の拡大像です。

食餌の内容物は殆どなく、食滞・鼓張状態です。

側臥状態のレントゲン像です。

盲腸にガスが多量に貯留しており、背骨を超えて鼓張しています。

鼻周辺の組織は、鼻骨の障害(融解)はありませんが、咬傷による組織炎症が進行しているのが分かります(黄色丸)。

オレオ君の一番の問題はこのガスを早急に抜くことです。

ウサギのように鼻腔がある程度の直径があれば、栄養カテーテルを経鼻胃カテーテルとして、鼻に挿入します。

そのままカテーテルを胃まで到達させ、胃内のガスを抜去する方法(減圧法)も考えられます。

しかしながら、チンチラは極めて鼻腔が狭いことに加えて、オレオ君の鼻腔は外傷で狭窄してるため、カテーテルの挿入は困難です。

そうなると直接胃へカテーテルを入れる方法が考えられます。

オレオ君の全身状態はよろしくなく、鼻呼吸が殆ど出来ていない状態です。

この状態で開口姿勢を維持して、胃へカテーテルを入れると呼吸停止に陥る可能性が大きいです。

また盲腸から下部のガス貯留については、開腹して腸切開してのガス抜きも困難です。

ましてや、皮膚から針を穿刺して腸管からガスを抜去するという処置は、ショック死する危険を伴います。

結局のところ、消泡剤・胃腸蠕動亢進薬・抗生剤・鎮痛剤の組み合わせで投薬して経過を診ていくこととしました。

残念ながら、オレオ君は受診当日に亡くなられました。

チンチラは細菌感染にウサギ以上に弱いこと、鼻腔の炎症や歯の疾患などで鼻呼吸が出来なくなると容態は急変することをご理解下さい。

特に草食獣は肺が小さく、呼吸不全になりやすいです。

鼻呼吸が出来なくなれば、開口呼吸に移行するのは時間の問題で、簡単に食滞・鼓張症に陥ります。

一旦、食滞・鼓張症になると回復させるには大変な努力が必要となります。

鼻呼吸がスムーズに出来ていないと感じたら、速やかに受診して下さい。

チンチラの病態の進行は非常に早く、犬猫の比ではないことをご了解下さい。

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