こんにちは 院長の伊藤です。

本日ご紹介しますのは犬のマムシ咬傷です。

本来ならば、この記事の掲載を8月中に予定してたのですが、日常業務が多忙に付き現在に至りました。

話の内容としては、若干季節外れの感は否めませんがご了解下さい。

また、以前に犬のマムシ咬傷という表題で記事を載せてます。

興味のある方は、こちらをクリックお願い致します。

柴犬の太郎君(雄、10歳10か月齢、体重13kg)は、3日前に夜の散歩中に何かに咬まれて、患部が翌朝には激しく腫脹し始めたとのことで他院で治療を受けていたのですが、状態が改善しないため当

院に転院されてきました。

他院で蛇の咬傷であろうということで鎮痛剤の投薬を受けていたようですが、咬まれたと思しき箇所は皮膚が壊死・出血を起こしていました。

また太郎君自身の全身状態も不良で、熱発、呼吸は速迫で辛そうです。

左の前足の甲は皮膚が壊死・剥離して皮膚は吻開して膿が溜まっています。

左の腋下には出血巣が認められます。

傷口を確認するために左足を剃毛します。

何ヶ所も咬傷が認められます。

早速、患部を入念に消毒・洗浄します。

洗浄直後の左足です。

下写真の黄色矢印はヘビに咬まれた傷である牙痕(がこん)です。

左足の側面だけでも牙痕は少なくとも6か所ありました。

おそらく牙痕から周辺組織に及ぶ腫脹、加えて牙痕からの断続的な出血からマムシの咬傷であると診断しました。

患部の治療のため、イサロパンという粉薬を塗布します。

このイサロパンはヨーロッパの薬草「ヒレハリ草」から導き出されたアラントインの誘導体で,肉芽形成促進,表皮形成促進作用があります。

今回のような皮膚欠損には効果的ですが、大量にイサロパンを塗布すると基剤となる炭酸マグネシウムが滲出液を吸収して、患部が乾燥してしまうため注意が必要です。

皮膚のびらんや潰瘍治療には、患部の適度な湿潤環境設定が重要です。

外用の抗生剤軟膏を塗布します。

特に前足の甲が高度に細菌汚染されていますので、患部の状態が良化してきたらドレッシング材を使用する予定で治療を進めます。

世界中には400種の毒蛇が存在します。

うち日本で問題となる毒蛇は本州では、マムシとヤマカガシで渥美諸島以南ではハブです。

マムシとハブはクサリヘビ科マムシ亜科に属するヘビです。

これらのヘビ毒は血液毒性・血管毒性・壊死毒性を有しています。

牙痕から注入されたマムシ毒は赤血球を破壊し、血漿の漏出を引き起こし、患部の浮腫に至ります。

咬傷後1~2時間で咬傷部位の皮下・筋肉層に出血と腫脹が起こり、それは進行します。

蛇毒の液量が多い程に発熱・心悸亢進・痙攣・血圧低下・呼吸困難から起立困難となり昏睡から死亡に至る場合もあります。

太郎君の初診時の血液検査では、貧血が進行してました。

下写真は溶血が進行している太郎君の血液(上清部)です。

赤血球数510万、ヘモグロビン10.6g/dl、ヘマトクリット27.9%という状態で、貧血がこのまま進めば輸血が必要となります。

筋肉障害を示すクレアチンキナーゼ(CPK)は高度上昇のため測定不能、C反応性蛋白(CRP)は6.1mg/dlと高値、加えて肝機能も高度の障害を示していました。

太郎君の全身状態改善のため、点滴と抗生剤、セファランチン(抽出アルカロイド)の投薬をしました。

来院時に咬傷から3日経過していますから、急性期は何とかクリア出来ていたのが幸いして太郎君の状態は改善してきました。

入院2日目の患部です。

まだジワジワと牙痕から滲出液が出て来ます。

入院して5日目には、全身状態は回復してきましたので太郎君は退院して頂きました。

皮膚の治療はまだ日にちがかかりますので通院が必要です。

咬傷後26日目の太郎君です。

患部はほぼ綺麗に治癒できています。

発毛が完了するまではまだ数か月を要するでしょうが、太郎君も元気に生活できているので良かったです。

太郎君は柴犬としては性格が非常におとなしく穏やかです。

過去のマムシ咬傷の患者は過半数が柴犬でした。

柴犬は好奇心が強い気性のため、どちらかというとマムシを追い込んで、逆にマムシの逆襲で顔面や頚部を咬まれることが多いです。

今回の様に前足だけ複数個所咬まれるケースは珍しいです。

比較的短期間で回復できたのも肢の末梢部の受傷で治まったからだと思われます。

以前掲載した犬のマムシ咬傷をご覧いただけると了解いただけると思いますが、顔面が腫脹したりすると回復には時間が必要ですし、全身状態はかなり悪化することが多いです。

太郎君、お疲れ様でした!

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