こんにちは 院長の伊藤です。

犬の歯周病に最近、関心を持たれる方が増えているようです。

デンタルケアについて、患者様からご質問を受けることが多いです。

歯周病予防は、いかに幼犬期からデンタルケアの習慣付けが出来るかにかかっていると言えます。

特に4,5歳以降に臼歯に歯石が付着して、歯根部が炎症に至り、最終的に根尖周囲病巣となります。

この根尖周囲病巣が上顎の第4前臼歯に生じると眼の下に瘻管が形成され、排膿が起こります。

第4前臼歯根尖周囲病巣については、以前こちらにコメントさせて頂きました。

本日、ご紹介しますのはこの第4前臼歯根尖周囲病巣になって6年間排膿し続け、やっと抜歯して完治したという症例です。

シーズーのジャック君(7歳、去勢済)は1歳7か月齢で左眼の下あたりから血膿が流れ始めました。

まだ若いけれど歯石が第4前臼歯に付着しており、上顎第4前臼歯根尖膿瘍に至っていると診断して上顎第4前臼歯の抜歯をお勧めしました。

しかし、飼い主様は抜歯するより抗生剤で抑えて行きたいという意向です。

抗生剤の投与で多少の排膿は抑えられるかもしれませんが、本態療法としては抜歯をしない限り無理です。

それでも飼い主様の都合で内科的療法を継続することとなりました。

各種の抗生剤を交代しながら投薬をしました。

耐性菌が生じたらとの心配もありました。

毎日連続投薬するというのではなく、排膿が酷い時に不定期に投薬するという感じです。

時は流れ、この不定期投薬が6年近く続きました。

この6年間は左眼下の排膿は持続的にあり、ジャック君の左側顔面は診察の度に濡れている状態でした。

そんな中、飼い主様から抜歯したいと今年7月に入り、オファーを受けました。

実際、内科的療法でこの第4前臼歯根尖周囲病巣は完治することはなく、ジャック君の左眼の下は相変わらず膿で汚れています(下写真黄色丸)。

長年、ジャック君にとって不快であったと思われる第4前臼歯根尖周囲病巣を一掃できる日が到来しました。

ジャック君の歯をレントゲン撮影しました。

第4前臼歯根尖周囲の骨吸収像が認められます。

早速、抜歯を実施することとします。

ジャック君には全身麻酔で寝て頂きます。

ジャック君の左眼下を注意深く見ていきますと下写真の通り、歯根部からの排膿のための瘻管が見つかりました。

鉗子先端で瘻管の穴に挿入すると深い所まで挿入可能でした。

下写真黄色丸が瘻管の開口部です。

これからが本番です。

テーパータイプのダイアモンドバーで第4前臼歯を分割していきます。

第4前臼歯は歯根が3本ありますので、2か所分割をして抜歯します。

分割した臼歯をエレベーターで歯槽骨から脱臼させます。

抜歯鉗子で歯根ごと抜きます。

下写真は抜歯した跡です。

これだけではダメで抜歯した跡の歯槽骨のトリミングが必要です。

ロンジュールトという骨を砕く鉗子で抜歯窩周囲歯槽骨の鋭利な部位をトリミングします。

その後、ラウンドタイプのダイアモンドバーで細かな歯槽骨を削って行きます。

歯槽骨のトリミングが終了後、歯肉を縫合します。

下写真は歯肉を縫合完了したところです。

麻酔覚醒直後のジャック君です。

お疲れ様でした。

さて、2週間後に来院したジャック君です。

抜歯後の左眼下の排膿はなくなり、綺麗になっています。

6年間の内服で完治できなかったものが、数十分の抜歯で眼下排膿(外歯瘻)は治せます。

歯については、特に抜歯が絡んだ歯科疾患になると悩まれる飼主様が多いのも事実です。

内科的な治療では限界があること、ワンちゃん自身の疼痛感・ストレスを考慮するならば、早めの抜歯をご選択して頂きたいと思います。

たとえ臼歯の抜歯でも、食生活に不自由することはほとんどありません。

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