犬ワクチンの副作用
この文章をお読みの皆様は、定期的なワクチン接種を愛犬に受けさせていることと思います。
一般的には犬のワクチン接種には、狂犬病ワクチンとジステンパー・パルボ等の混合ワクチンがあります。
狂犬病予防法に準じて犬の飼育者には年に1回の狂犬病ワクチンの接種義務が課せられています。
一方、飼育者の任意でありますが、混合ワクチンも初年度は数回、翌年からは年1回の接種が必要となります。
いずれのワクチンも接種して何の副作用も生じなければ問題はないのですが、副作用が出て大変な目に遭われるケースもあります。
当院でも日常診療でワクチン接種は実施していますが、副作用として一番多いのがムーンフェイスと呼ばれる顔面の浮腫です。
接種後、数時間以内にあたかも顔面を殴られたかのような腫れがワクチン接種後に現れます。
ムーンフェイスになりますと多くの症例で、顔面の痒みを訴えます。
次の写真は別件のスムースダックスです。ワクチン接種後、顔面に丘疹がたくさん生じました。
そのままにしておいても約2~3日で症状は治まることが多いです。
当院ではステロイドを投薬し、ほぼ翌日には治まることが多いです。
ムーンフェイス以外に嘔吐や下痢という症状が見られる場合もあります。
ムーンフェイスで命に別状がある場合は遭遇したことが」ありませんが、次にご紹介するアナフィラキシーショックについては非常に怖いものがあります。
アナフィラキシーショックとは、体内に異物(今回はワクチンの成分)が侵入することで、この異物を体内が抗原と認識して追い出そうと生体自体が激烈なアレルギー反応を起こすことを言います。
アナフィラキシーショックは接種後、速ければ数分で症状が現れます。
具体的には、急激に血圧が低下し可視粘膜(歯茎、結膜など)が蒼白になります。
次いで興奮状態になり、よだれを出し、嘔吐・脱糞・放尿が起こります。
この状態で緊急処置をしないとショック(虚脱)状態になり、痙攣・呼吸困難・昏睡状態となり死亡します。
このダックス君はワクチン接種後、わずか数分で嘔吐が始まりその後、虚脱状態に陥りました。
急遽、血管を確保しエピネフリン、デキサメサゾン、ジフェンヒドラミンを静脈投与して輸液療法を開始しました。
歯茎は真っ白になり、涎は止まらず、痙攣がしばらく続き、眼振・除脈も出てきました。
かなり危険な状況になるかと思われましたが、数時間後には何とか容態は好転し始めました。
点滴は2日間に及び、容態も改善して、無事退院することが出来ました。
アナフィラキシーショックは緊急処置を必要としますので、迅速な対応ができるかが鍵となります。
毎年ワクチン接種をしていて、副作用のなかった子でも、今年接種したら副作用が出てしまったというケースもあります。
接種を受ける時間帯が夜の場合、自宅に帰られてから副作用の症状が出てしまったら、とても心配ですよね。
その頃には、すでに動物病院は閉まっていることだってあります。
出来ればワクチン接種は午前中にお受けいただいた方が賢明でしょう。
何度もワクチンの副作用が出るケースは接種を控えられた方が良いと思います。
感染症に罹る確率よりも、毎年のワクチン接種の副作用発症率の方がはるかに高いというのはナンセンスです。
例えば、狂犬病ワクチンでは狂犬病予防注射猶予制度が各市町村にありますので、動物病院で狂犬病予防注射猶予証明書を書いてもらい、申請書を提出していただければよいと思います。
ワクチン接種はワンちゃんの健康のために実施すべきものなんですが、100%安全なワクチンが開発されていないという事実があります。
我々、獣医師はワクチンメーカーを信頼して接種を実施していますが、副作用が出るか否かは正直、接種してみないとわかりません。
メーカーの技術者の皆さん、副作用のないワクチンを早く作ってください!!
切なる願いでした。