犬の子宮蓄膿症
以前に、当院のホームページ、避妊去勢の項目でこの子宮蓄膿症を簡単にまとめて記載いたしました。
実際に子宮蓄膿症がどのような疾病であるか、手術時の写真も含めて、ご紹介したいと思います。
シェルティのモカちゃんはこの一種間ほど、元気食欲が振るわないとのことで来院されました。
多飲多尿、嘔吐を初めとする子宮蓄膿症の症状はなく、ただお腹が腫れている点と血液検査で白血球数が26,600/μlと高いのが気になります。
早速、レントゲン撮影及びエコーで検査を行いました。
レントゲン写真は以下の通りです。
黄色い丸に囲まれた部分は大きなマス(塊)が認められます。
ついで超音波診断の結果ですが、低エコーレベルの領域が認められました(黄色い矢印)。
おそらく下腹部に大きなマスが存在しており、それは子宮の可能性が極めて高く子宮蓄膿症の疑いで早速、開腹手術を実施いたしました。
開腹した途端、大きなマスは子宮であることが判明しました。
実はあまりに大きくて、体外に出すのが非常に大変でした。
上の写真にあるアリス鉗子と比較しても非常に子宮が大きいのがお分かり頂けると思います。
膿が大量に子宮角に溜まっており、卵巣動静脈を縫合糸で結紮するスペースを確保するのが厳しく、バイクランプを用いて血管をシーリングしました。
子宮を雑に扱うと破裂してしまう可能性もあり、慎重に摘出操作を進めます。
バイクランプの取り扱いもだいぶ慣れてきましたので、手術時間も大幅に短縮することが出来ました。
上の写真が摘出した卵巣・子宮です。
左側子宮角に多量の蓄膿が認められます。
これだけの大きな子宮を摘出するとモカちゃんの下腹部はすっきりしました。
麻酔覚醒後、大きな子宮を摘出したことで循環血流量の低下・血圧の低下もあり、意識は戻っているのですが自力で立ち上がることが出来ずに6時間ほど経過しました。
各種処置を施して6時間後には何とか起立できるようになりました。
この6時間がなんと長く感じられたことでしょうか。
モカちゃんは10日ほど入院生活を送り、無事元気に退院されました。
以前、私は60kgのセントバーナードの子宮蓄膿症の手術をしたことがあります。
摘出した子宮は8kgありました。
摘出と同時にバケツに子宮を入れたところ、子宮が弾けてバケツは膿だらけとなった経験があります。
モカちゃんにしてもお腹が圧迫されて、腹腔内で弾けたら腹膜炎から敗血症に至っていたかもしれません。
若い頃に避妊手術を受けてない雌犬は高齢(5~7歳以上)になってから、この子宮蓄膿症を罹患するケースが多いです。
子宮蓄膿症の最善な治療法は外科的摘出に尽きます。
また手術を受ける前にすでに重篤な症状を呈してる場合も多いです。
貧血や低蛋白血症を併発していれば輸血の必要性もあります。
加えて、手術が成功しても全身に回っている細菌が作り出す毒素(エンドトキシン)は術後に、低体温症や低血圧をまねきショック
症状に陥ることもあります。
子宮蓄膿症とは全身性感染症であることを忘れないでいただきたい。
そして、繁殖を考えないのなら最初の発情を迎える前に避妊手術を受けることをお勧めいたします。