犬の子宮蓄膿症(その2)
避妊手術をしていない雌犬が7,8歳以上のシニア世代になると、罹患しやすい疾病に子宮蓄膿症があります。
この疾病については、以前犬の子宮蓄膿症でコメントさせて頂きました。
その後も、頻繁に子宮蓄膿症の手術をしておりますが、受診される時には重篤な症状になっているケースも多く、飼主様への注意勧告のためにも、再度症例報告させて頂きます。
ミュニチュア・シュナウザーのショコラちゃん(未避妊、7歳)は数週間ほど前から陰部からおりものが多いとのことで来院されました。
陰部からの排膿は、経験的に子宮蓄膿症を疑います。
膣からの排膿は、子宮頸管の解放程度や貯留膿汁量により異なります。
一般的には、膣からの排膿量が多い犬の方が、子宮頸管が閉塞して排膿しない犬に比べて症状は軽いです。
犬の子宮蓄膿症の内、15~30%が子宮頸管閉鎖型で排膿が認められないと言われます。
今回のショコラちゃんは、陰部からの持続的排膿があり、この疾患の特徴的な症状は顕著に出ていませんでした。
子宮蓄膿症の症状は、多飲多尿、嘔吐、下痢、食欲不振、沈鬱、膣からの排膿です。
早速、レントゲン撮影を実施しました。
下写真の黄色丸内に腫脹した子宮の陰影が認められますが、以前報告したケースと比較して、そんなに子宮の腫脹は顕著ではありません。
血液検査を実施したところ、白血球数が54,200/μlと非常に高い数値を示しました。
犬の正常な白血球数は上限が17,000/μlとされてます。
体内に細菌が侵入した場合、この細菌をやっつけるために白血球が増産されるわけです。
子宮蓄膿症であることは紛れもなく、早速卵巣子宮全摘出手術を実施することになりました。
開腹した途端に、腹腔から子宮が飛び出してきました。
本来、子宮は平滑なY字の管状構造を呈しています。
子宮蓄膿症になりますと子宮内に貯留した膿汁で分節上に、あたかもソーセージのように腫脹します。
子宮を傷つけないよう、膿汁を外に漏出しないよう配慮しつつ手術を進めていきます。
バイクランプで大きな血管はシーリングしていきます。
正常な子宮と比較して何倍もの大きさです。
特に大きな問題もなく手術は終了しました。
摘出した子宮です。
手術が成功しても、決して安心はできません。
子宮蓄膿症の原因菌とされるブドウ球菌・大腸菌が産生するエンドトキシンが血中を回って血圧の低下・体温低下によるショック状態が現れる場合もあります。
ショコラちゃんは5日間入院して頂き、無事退院されました。
下写真は、患部の抜糸のため本日、来院されました元気なショコラちゃんです。
子宮蓄膿症の予防は、避妊手術を早期に受けることだと思います。
勿論、犬の自然の発情周期に従って、繁殖をするというのも一つの予防法でしょう。
しかし一般のご家庭で、年に2回ほどの発情が来るたびに出産させるというのは無理です。
過去に当院の患者様で体重65kgのセントバーナードがいました。
特に避妊もせず、6歳になった年に子宮蓄膿症を発症されました。
摘出した子宮の重さは9kgでした。
手術は成功したかに見え、本人も1週間ほど元気に過ごされたのですが、血中に残っていた細菌のトキシンショックで急逝されました。
先日は、8歳のチワワで子宮蓄膿症で来院されましたが、開腹した時点で腹腔内には子宮が破裂して膿が貯留してました。
術後、この子も治療の甲斐なく急逝されました。
子宮蓄膿症は全身の感染症であるということは忘れないで下さい。
手術すれば、完治すると安易に考えないで頂きたい。
新たに子犬から飼われる飼主様にあっては、1歳未満の若い時期に避妊することを真剣に考えていただきたいと思います。
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