院長の伊藤です。

犬は各種の寄生虫感染を幼犬期から受けます。

今回ご紹介しますのは、幼犬の糞線虫感染例です。

トイプードル君(2か月齢、雄、名称未定)は下痢が続くとのことで来院されました。

粘稠性のある軟便が数日間続いているとのことです。

早速、検便を実施しました。

下写真(黄色丸)に3匹のヘビのような寄生虫が認められます。

さらに拡大します。

この寄生虫は糞線虫(Strongyloides sterorali)の幼虫です。

糞線虫は数ある寄生虫の生活環の中でも変わったスタイルをとります。

糞線虫は大きく分けて2つの世代に分かれます。

1つは寄生生活世代:動物の腸管内に寄生する世代(♀のみ)

1つは自由生活世代:外界で発育・交尾する世代(♂と♀の両方が存在)

です。

感染様式ですが、既に感染している動物の排便された糞便内に存在する幼虫が外界で、成長・脱皮します。

外界では既に雄雌に分化しており、交尾をします。

脱皮を繰り返して第3期に成長した幼虫が、動物に摂取されると感染が成立します(経口感染)。

糞線虫の特徴として皮膚を穿孔して体内に侵入するケースもあります(経皮感染)。

以上、体内で寄生するのは雌のみです。

雌幼虫は皮膚から感染した場合は、肺に向かい(この時、せき込みが認められます)、そこから口、消化管へと寄生して腸で産卵、孵化します。

以上のように糞線虫の生活環は自由生活世代があるため、長い時間外界で生存可能です。

そのため、排便した糞は速やかに処分して、生活環境を清潔に保つようにして下さい。

治療法としては、1回だけの駆虫処置で落ちることはありません。

検便も並行して実施し、複数回に分けて継続的に駆虫薬を投薬していきます。

当院では、駆虫薬としてイベルメクチンミルベマイシンオキシムを使用することが多いです。

成犬が糞線虫に感染すると水溶性下痢を起こしますが、症状に現れないケースもあります。

仔犬が感染すると激しい下痢、発育不良・体重低下が認められます。

さらに、状態によっては出血性の腸炎を起こして衰弱死する場合もあります。

気を付けて頂きたいのは、この糞線虫は人畜共通伝染病であることです。

糞の処置に気を付けないとヒトにも皮膚を穿孔して感染することもあります。

トイプードル君、早くこの糞線虫を駆虫して、下痢を治しましょう!

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