こんにちは 院長の伊藤です。

本日、ご紹介しますのは顔面に発生した腫瘍をレーザーで処置したケースです。

体表部にできる腫瘍は、その発生部位により、外科的に切除出来る場合とできない場合に明暗が分かれます。

特に顔面にできる腫瘍は、完全切除が難しく腫瘍が大きくなるほどに困難を極めます。

飼い主様としても、愛犬の容貌を崩すまでの手術を希望されない場合も多いです。

愛犬の命と容貌のどちらを取るか、悩まれる事例です。

ウェルシュ・コーギーのエミリーちゃん(15歳、避妊済)は顔面に大きな腫瘍(下写真黄色矢印)が出来たとのことで来院されました。

1年ほどの間、この腫瘍はどんどん大きくなっていったそうです。

正直、よくぞここまで経過観察されたと思いました。

まずどんな腫瘍なのか、細胞診を実施しました。

病理医からは、血管周皮腫との診断でした。

下写真は細胞診の顕微鏡像です。

血管周皮腫は、軟部組織肉腫の一種です。

悪性腫瘍であり、治療法は外科的切除か放射線療法となります。

特に顔面腫瘍ですから、外科的に完全切除は困難です。

縫合のための皮膚マージンを取ることは出来ません。

飼い主様は化学療法も放射線療法も特に希望されず、左眼の視野を防ぐ腫瘍を取れる範囲で良いから切除して欲しいとの意向でした。

そのため、半導体レーザーを使用して腫瘍をレーザーの熱で蒸散させ縮小させる方法を取ることとしました。

下写真は半導体レーザーのユニバーサルハンドピース(ラウンドプローブ)で先端部が丸くなっています。

このラウンドプローブの利点は、熱伝導が浅い所までしか届かないため、先端部を患部に加圧して限局的に熱蒸散することが出来ます。

加えて、エミリーちゃんの様に高齢犬の場合、麻酔のリスクが絡んできますが無麻酔で実施することが可能です。

飼い主様のご了解を頂き、レーザーによる蒸散処置を実施することとなりました。

プローブを加圧した皮膚から200度あまりの熱が伝道され、皮膚が焦げて煙が出て来ました。

途中で何度か水を飲んでもらいます。

プローブが接触している腫瘍部はすぐに炭化します。

炭化した組織より深部組織から出血が始まりました。

しかし、プローブに接触するとすぐに炭化し派手な出血に至る心配はありません。

左手で患部を持つ手に力を加えると蒸散している部位から、一挙に熱変性していない腫瘍が飛び出してきました。

腫瘍の中心部の塊が一挙に排出されて、患部は随分縮小したようです。

後は蒸散した患部からの出血を抑えて今回の処置は終了としました。

処置が終了したエミリーちゃんです。

処置前に比べて患部が小さくなっているのがお分かり頂けるでしょうか?

硬性メス(ステンレス刃)を使用した場合、おそらく出血を止めることが大変な状況になっていたと思われます。

今回はあくまで患部を縮小させることが目的でしたから、目標は達成できたと思います。

下写真の左側が炭化した腫瘍組織、右は圧迫排出した腫瘍組織です。

炭化すると腫瘍組織の水分が蒸発しますので、かなり組織量が炭化したことが予想されます。

エミリーちゃんの患部には高熱が加えられたはずなんですが、本人は特に熱がることもなく1時間以上に及ぶ処置に無麻酔のまま耐えてくれました。

処置中は何度か、水を飲むことで体温を下げて気分転換することで対応できました。

ただ、応急的な対応なので残った腫瘍が再び増殖することは十分考えられ、今後の展開は憂慮されます。

エミリーちゃん、お疲れ様でした。

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