こんにちは 院長の伊藤です。

当院のマスコット的存在であるゴールデンレトリバーのベティ(13歳10か月、避妊済)ですが、3週間ほど前に突然立てなくなってしまいました。

下写真は健康な在りし日のベティです。

ベティは身体能力も優れ、とても私では追いつけないスピードで走ることもできました。

また性格的にも穏やかで、他の犬と喧嘩することもなく平和的な犬です。

過去にも何例もの患者犬へ、自身の血液を輸血して命を救ったこともあります。

開業してから、私の右腕として陰に陽向になって支えてくれた大切な存在です。

そんなベティにも、神様は分け隔てなく試練を与えます。

6月15日に朝出勤して、病院に到着と同時に突然、ベティの両眼に眼振が起こり、斜頚の症状が出ました。

眼振とは眼球振盪の略で、内耳の三半規管と蝸牛の間の前庭部が障害を受けて起こる症状です。

眼振は水平方向に起こり、末梢性の前庭障害が示唆されました。

ちなみに垂直方向の眼振は中枢性前庭障害が関与しています。

末梢性前庭障害で特に多いのは、突発性前庭症候群と呼ばれる病気です。

前庭の内部リンパ液の浸透圧異常が原因とされますが、その詳細は不明です。

ベティの首が左に傾き始め、ねじれが生じてます(下写真)。

この症状を捻転斜頚と言います。

既にベティは立つことが出来ず横転し、眼振による吐き気で嘔吐をします。

写真ではうまく写せませんが、眼振が続いています。

末梢性前庭障害は、10歳以上の老齢期に突発的に発生することがあります。

老齢期の末梢性前庭障害を称して老齢性前庭障害と呼びます。

老齢性前庭障害は捻転斜頚、眼振、吐き気がある日突然生じて1週間前後で症状は治まり、次第に回復に向かうとされます。

捻転斜頚の特徴である斜頚については、治るまで数か月を要する場合もあり、完全に回復しない症例もあるとされます。

起立困難になったベティは、大型犬であることから床ずれ(褥瘡)が問題となります。

エアクッションのマットを用意しました。

寝心地は良いだろうと思ったのですが、本人はフカフカして落ち着かない様子です。

問題はトイレです。

自力で立つことが難しいので、排尿排便をさせるために背中から腰の部分に持ち手が付いたアシスタントバンドも導入しました。

このアシスタントバンドで、ベティをトイレまで運んで用を足させます。

発症4日後のベティです。

眼振は消失しました。

ある程度、自力で歩行ができるようになりました。

斜頚は依然、続いています。

食餌は顔面の左側が軽い麻痺があり、フードをぼろぼろと口からこぼしてしまいます。

幸い排便排尿は自分でできるようになりましたので、あとは斜頚の回復を目指します。

今回のような老齢性前庭障害の場合は、原因不明のため有効な治療法はありません。

基本は対症療法となります。

ベティの場合は、ステロイドとクロラムフェニコールの内服で経過観察を続けています。

今年14歳のベティは、人間でいえば90歳のお婆ちゃんになります。

加齢はどんな生物にも訪れるし、避けて通ることは出来ません。

ちびっ子の2か月齢から、家族の一員として迎えて14年という歳月が流れました。

ヒトと犬では時間の長さが異なります。

ヒトの1年が犬の犬種により異なりますが、5年から7年に匹敵します。

いずれベティも天寿を全うするでしょうし、それは私も同じです。

健康な時は死を意識することなんかないでしょうが、死は必ず訪れます。

いつ死んでもよいように日々を全力で過ごしたいと思っています。

でも現実には、些細なことでつまずいてもがいている凡夫の私です。

早く斜頚が治って欲しいね。

頑張れ!! ベティ!!

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