犬の軟部組織肉腫(その2 ベティの場合)
こんにちは 院長の伊藤です。
皮膚から皮下組織に及ぶ腫瘍は、あらゆる動物種に認められます。
犬の皮膚及び皮下組織に発生する腫瘍の約15%を占めるのが軟部組織肉腫です。
以前、ウェルシュコーギーの軟部組織肉腫についてコメントさせて頂きました。
悪性腫瘍である軟部組織肉腫についての詳細は、こちらを参照下さい。
今回、軟部組織肉腫で紹介するのは当院の看板犬のベティです。
今年の6、7月と2回にわたり、老齢性前庭器症候群という疾患になり一旦、起立不能状態に陥りました。
その時の詳細はこちらを参照下さい。
何とか回復し元気に生活できるようになったのもつかの間、左側胸部にウズラ卵大の腫瘤が見つかりました。
この腫瘤は、わずか数週間で米粒大から一挙にウズラ卵大に大きくなりました。
下写真のマジックで囲んである箇所が皮下の腫瘍です。
大きな丸の中に2個、小さな丸の中に1個腫瘍が認められました。
速やかに細胞診を行いましたが、検査センターの結果が線維肉腫などの間葉系腫瘍であるとのこと。
おそらくは軟部組織肉腫に間違いないと判断して、外科的摘出をすることとしました。
当院を受診された方はご存知だと思いますが、すでに14歳の老犬です。
ヒトの年齢で換算すれば90歳位のお婆ちゃんになります。
局所麻酔を最初は検討したのですが、術野がかなり広いため、皮下に局所麻酔を浸潤させるにはかなりの麻酔量が必要となり、麻酔のリスクを考えると局所麻酔も全身麻酔もあまり変わらないだろうと思われました。
私が14年間世話してきた子ですから、自分の最大能力を出して全身麻酔による手術にあたることとします。
確実な全身麻酔を行うために橈側皮静脈に点滴のルートを確保します。
気管挿管します。
完全に寝ています。
これから麻酔のモニタリングを慎重に行います。
体重が23kgあるので手術台が小さく見えます。
極力マージンは大きく取って、腫瘍を摘出します。
ガーゼから少し先端が出ているのは、半導体レーザーメスです。
手術室は、レーザーメスによる肉の焦げる臭いで充満してます。
下写真の黄色丸は、皮下組織に存在する腫瘍です。
腫瘍が浸潤していると思しき部位は、徹底してレーザーで焼いて摘出します。
ベティの場合、皮下脂肪が多く幸いに筋膜までの浸潤はありませんでした。
腫瘍を切除した跡です。
胸はテンションがかかる部位なので、皮下に吸収糸をかけて皮膚が綺麗に癒合できるようにします。
皮下縫合が完了しました。
皮膚縫合が終了しました。
ベテイは、大きな麻酔による障害もなく無事1時間ほどの手術に耐えてくれました。
摘出した腫瘍です。
黄色丸が腫瘍です。
病理検査に出した結果です。
異型性を示す腫瘍性紡錘形細胞によって、ベティの腫瘤は構成されていました。
軟部組織肉腫のグレードは3段階に分けられます。
グレードを分ける指標は、顕微鏡下で10視野あたりの有糸分裂像の数、そして壊死巣の%で判定されます。
下写真の黄色矢印は盛んに分裂(有糸分裂)している腫瘍細胞です。
結局、ベティのグレード2とのことでした。
グレード2は再発率が34%というデータ―が出ています。
もっと早期に摘出すべきであったと自責の念に駆られます。
今後も患部の再発を慎重に経過観察が必要となります。
術後、暫くの間ベティにはTシャツを着て過ごしてもらいました。
療養中、ベティの誕生日を祝って、患者様のひまわりちゃんからプレゼントを頂きました。
どんなプレゼントなのか、ベティは興味津々です。
頂いてすぐにクッションを利用させて頂いてます。
ひまわりちゃん、ありがとうございました!
術後約2週間で抜糸することとなりました。
傷口も綺麗に治っています。
下毛も順調に生えてきています。
今後、腫瘍が再発しても恐らく、外科的切除は行いません。
麻酔に耐えられないでしょう。
当院の看板犬として14年にわたって頑張ってくれた子です。
それでも近いうちにお別れしなくてはならない日が訪れると思います。
高齢犬の麻酔管理・外科手技について身を以て教えてくれたベティに感謝します。
そして、出来うるなら長生きして欲しいと願う私です。
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