こんにちは 院長の伊藤です。

本日は暫くぶりにフェレットの話題です。

フェレットは5歳以降のシニア世代になりますと内分泌系腫瘍疾患が多発します。

インンシュリノーマ、リンパ腫そして副腎疾患です。

以前、副腎疾患の概略についてコメントさせて頂きました。

興味のある方ははこちらを参照下さい。

我々獣医師のフェレット・副腎疾患の診療現場での遭遇率は非常に高いという事実があります。

なぜ副腎疾患になるのかという確固たる原因は、まだ立証されていません。

仮説としては、早期の避妊・去勢説。日照時間説。遺伝的背景説。給餌内容説。等などあります。

日本での副腎疾患の実態は2006年に国内の31動物病院、521例の患者を対象にアンケート調査を実施し、その発生状況が論文にまとめられています。

その結果では、フェレットの腫瘍疾患における副腎腫瘍発生率は21.9%という結果です。

フェレットの副腎疾患はどんな症状からはじまるかというと脱毛です。

副腎疾患に罹患したフェレットの80%以上に脱毛が認められます。

エンマ君(去勢済、5歳)は尾から腰背部にかけて脱毛があるとのことで来院されました。

まず尻尾の脱毛です。

両大腿部の脱毛です。

下腹部から胸腹部にかけての脱毛です。

実際、換毛期になると2~3歳の若齢フェレットで生理的に尻尾に限定した脱毛や全身性の被毛が薄くなる現象が起こります。

そのため、脱毛だけの臨床症状で副腎疾患と確定診断はできません。

次に超音波検査による副腎の大きさを測定します。

下写真の黄色丸はエンマ君の副腎(左)です。

傍らに見える大きな臓器は腎臓です。

左副腎の厚さは5.5mmでした。

次は右の副腎です。

厚さは6.0㎜です。

Kuijtenらは副腎は厚さが3.9㎜以下は正常と報告しています。

一般的には副腎の厚さが5㎜を超えると異常と私は診断しています。

エンマ君は両側の副腎が腫大傾向にあります。

副腎疾患のステージはまだそれほど進行はしていないけれど治療の必要を感じました。

他に性ホルモン(エストラジオール、17ヒドロキシプロゲステロンなど)を血液検査で測定する方法もあります。

しかし、国内の検査機関では偽陰性結果となる可能性が高いとされていますので、その実用価値は低いと思っています。

次に、副腎疾患の治療法ですが、外科的摘出手術がベストです。

しかしながら、解剖学的には、右側副腎は後大静脈に隣接していて外科的切除は困難です。

左側副腎は後大静脈から単離してますから、切除は可能です。

つまり、副腎のどちら側に腫瘍ができるかで手術適応になるか判断されます。

エンマ君は両側性の副腎腫瘍の疑いがあると診断しました。

この場合は、外科的摘出はできませんので内科的治療を選択します。

内科的治療として、副腎から性ホルモンが過剰に分泌されて各種臨床症状が発現するフェレットは、GnRHアナログ製剤が使用されます。

具体的には、酢酸リュープロレリン(リュープリン®)が使用されることが多いです。

早速、エンマ君にリュープリン®(下写真)を接種します。

早ければ、約2週間ほどで全身の発毛が認められます。

約1か月ほどでリュープリンの薬効は消失するとされます。

したがって1~2か月に1回、リュープリン®(250μl)による接種が終生必要となります。

ヒトではこのリュープリン注は、前立腺癌や子宮内膜症、子宮筋腫の治療に用いられています。

脱毛以外の副腎腫瘍の症状について触れておきます。

1:掻痒

 副腎腫瘍の40%以上に認められる症状です。
 頚部から肩甲骨間に皮膚の自傷が認めらます。

2:雌の外陰部腫大

 本疾患に罹患した雌の50%以上に認められます。

3:雄の排尿障害

 前立腺の嚢胞化、腫大により頻尿・尿漏れを生じる。
 排尿時の疼痛を訴えるケースもあります。

4:去勢雄の発情回帰
 副腎腫瘍に罹患した雄では、他のフェレットを咬みついたり乗駕して交尾姿勢を取ろうとします。
 一般には、去勢雄は攻撃性は低く、雌や他の個体の頚部を咬んで引きずり回すことはありません。

5:貧血と紫斑
 罹患副腎から過剰分泌されるエストロゲンにより、高エストロゲン血症の影響を受けた骨髄が抑制され再生不良を生じます。
 白血球減少に伴う皮膚の紫斑や皮下出血も認められます。

以上、脱毛以外にもこれらの症状が認められたら、副腎腫瘍を疑って下さい。

最後にエンマ君とは別件のフェレットのピーちゃん(避妊済雌、4歳)の脱毛状態の写真です。

ピーちゃんも同様に副腎腫瘍でした。

超音波検査で、両側副腎が9㎜近くの腫大が認められました。

エンマ君同様、リュープリン®を接種します。

フェレットの副腎疾患は、副腎皮質原発の腫瘍や増殖性疾患がほとんどなので下垂体の異常や血清コルチゾール上昇は血液検査では確認できません。

一方、犬の副腎疾患である副腎皮質機能亢進症(クッシング症候群)は、血清コルチゾールの上昇が認められ、その80%以上が下垂体依存性の疾患です。

つまり犬では、副腎皮質腫瘍が原因となる確率はわずか15%程度であるということです。

動物種による差がある点は当然かもしれませんが、多くのフェレットがシニア世代以降に副腎疾患になるという事実は辛い所ですね。

本記事の諸症状が認められましたら、なるべく早くフェレットの診察可能な動物病院を受診下さい。

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