こんにちは 院長の伊藤です。

お腹に力を込めて踏ん張ったりするとお尻から直腸が飛び出してしまうことを直腸脱と言います。

直腸脱の状態はイメージするだけでも痛そうです。

臨床の現場では、特にエキゾチックアニマルにおいては哺乳類のみならず、鳥類・爬虫類・両生類に至るまで幅広く発症例が認められます。

直腸脱は一般に初期のステージであれば、脱出した直腸を肛門から腹腔内に押し戻して、肛門の端に縫合糸をかけて再脱出を起こさぬよう処置します。

これまでも、何例もエキゾチックアニマルの直腸脱は報告させて頂きましたので、宜しければそちらの方も各種動物別の疾病紹介で参照して下さい。

イラストでこの直腸脱の整復を説明しましょう。

下イラストが健康なフェレットの肛門及び直腸の側面像です。

次に肛門に腹圧(下黒矢印)が加わり、直腸が脱出したイラストです。

靴下を裏返しにして引き出したイメージと言えば良いでしょうか。

外側に脱出しているのは直腸の内側の粘膜にあたります。

つまり、刺激に対してデリケートで非常に弱い組織が外面に露出しているわけです。


次に脱出した直腸に色んな外力(飼育環境下の床面との干渉、自咬など)によって、粘膜面は発赤・腫脹し出血を繰り返し、脱出が長期にわたると下イラストのように腫瘍のように腫れ上がります。

ダメージを受けた直腸粘膜面を保護・修復するために脱出した直腸を元に戻し(下イラスト赤矢印)、整復処置を実施します。


脱出した直腸を戻して、あとは障害を受けた直腸粘膜の修復を待ちます。

以上が整復処置の概略です。

さて、フェレットのぺんね君(去勢、2歳8か月)は、直腸脱になったとのことで来院されました。

下写真の黄色丸は脱出した直腸です。

前述したイラストの様に脱出した直腸粘膜は暗赤色に腫大しています。

早速、全身麻酔を施して直腸を戻すこととしました。

下写真の黄色矢印は、直腸の腫大部側面から便が漏出しているのが見つかりました。

ゾンデで確認したところ、裂けているのが分かります。

直腸は柔らかく脆いため、脱出してから床で擦れたのかもしれません。

裂孔部を修復するため、縫合します。

数針の縫合でクリア出来ました。

次に直腸を傷つけないように戻していきます。

まだそれほど大きな腫脹ではないので,容易に指先で戻すことが出来ました。

戻すことが成功しても、そのままでは直腸は再脱出してしまいます。

直腸脱防止のため、肛門の端に縫合糸で糸をかけて肛門の幅を絞り込む方法を採ります。

哺乳類に限らず、爬虫類や鳥類でも私はこの方法で対応することが多いです。

下写真はナイロン縫合糸で肛門の一端を縫い絞り込むところです。

一つの目安として、綿棒を肛門に挿入して排便が可能かを確認します。

この状態で一週間経過観察し、問題なければ抜糸して治療は終了です。

ぺんね君、お疲れ様という所だったのですが……….。

その後、ぺんね君は程度の差こそあれ、4回直腸脱を繰り返すこととなります。

肛門の両端を縫合する方法では、どうしても腹圧が強いと外肛門括約筋を縫合糸が分断して外れてしまいます。

ぺんね君の活動的な性格もあるのでしょうが、この一般的な整復法では限界です。

下写真は、1か月後のぺんね君です。

直腸脱の疼痛のため、排便も出来ず食欲廃絶、ショック状態になっています。

度重なる脱出で直腸粘膜は強い暗赤色を示しています。

肛門端の先回縫合した糸も直腸が脱出した勢いで、外肛門括約筋を寸断して皮膚にぶら下がっています。

再度、直腸を戻します。

既に直腸粘膜面は腫大したしこりの様になっています。

無事戻せましたが、ここからが本番です。

肛門の外周を巾着縫合という縫合法で締め上げることにしました。

このように巾着袋の口を締めるような形で、直腸の再脱出を抑え込みます。

この方法は、先の肛門端を縫合する方法よりも強い力で直腸を抑えることが可能です。

排便が出来るほどに肛門の開口幅を調整して締結します。

ショック状態になっているぺんね君の処置をして、これで本当に終了です、と言いたかったのですが………。

なんとこの3週間後に再脱出が起きてしまいました。

あの脱出した直腸のしこりの部分が、綺麗に修復するまで巾着縫合の糸もまだ抜糸せずに経過観察でいたのですが残念です。

ぺんね君は最初に直腸脱になってから、なんと7週間も排便時の不快感や疼痛との戦いを展開してきたことになります。

ここで、私が飼主様に提案させて頂いたのは脱出している直腸を切断して、体外で直腸を吻合して体内に戻す方法です。

ぺんね君を救うにはこの方法しかありません。

次回、フェレットの直腸脱(後編 ぺんね君救済計画)をご期待ください!

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