こんにちは 院長の伊藤です。

暫くぶりの記事になります。

読者の皆様方、お待たせして申し訳ありませんでした。

本日ご紹介しますのは、犬のエプリスです。

以前、このエプリスについてはコメントさせて頂きました。

興味のある方は、こちらをクリックして下さい。

エプリスとは、歯肉に形成された良性の局所的な増殖性病変を指す臨床用語です。

人医と獣医学領域ではエプリスの分類が微妙に異なったりします。

大きく分けて、エプリスは炎症性(反応性)エプリスと腫瘍性エプリスに分類されます。

炎症性エプリスは、線維性、肉芽腫性、血管腫性、巨細胞性エプリスなどがあります。

また腫瘍性エプリスは、線維腫性や線維肉腫性、骨形成性などが挙げられます。

本日ご紹介しますのは、腫瘍性エプリスに分類される線維腫性エプリスです。

ウェルッシュコーギーの蘭丸君(14歳4か月齢、雄、体重14.8kg)は下顎の歯肉に腫瘤が出来てるとのことで来院されました。

フードもしっかり噛めずにこぼすようになりました。

蘭丸君は怒りやすい性格のため、なかなか口の中をしっかり確認することが出来ません。

エリザベスカラーをつけた状態で患部をチェックし、外科的に摘出を前提で全身麻酔をかけることとなりました。

これから蘭丸君に麻酔前投薬を打ち込みます。

気管挿管したところです。

黄色矢印は患部のエプリスを示します。

切歯がエプリスの中に埋没するような状態です。

硬性メスを用いて、腫瘤基部に切開を施します。

下顎の歯槽骨の辺縁に沿うようにメスで離断していきます。

歯肉自体は硬い組織ですが、エプリスは脆い感触です。

強くピンセットで把持すると崩れてしまいます。

下写真黄色丸は切除したエプリスです。

切除した患部周辺の殆どの切歯は、既に歯根部からの動揺が確認されました。

切歯を抜歯します。

ひとまず、切歯を3本抜歯することになりました。

まだ腫瘤の取り残しが認められますので、新たにメスで切除します。

掻把子を使用して、可能な限りエプリスを外します(下写真)。

さらにもう一本切歯を抜歯します。

抜歯することで、エプリスとその入り込んでいた歯肉領域まで切除出来ました。

下写真は、切歯の抜歯跡です。

この抜歯跡に抗生剤を挿入します。

切除した歯肉創縁を縫合します。

縫合完了です。

麻酔から覚醒するまで蘭丸君の経過を見ます。

恐らく、覚醒するとそのまま咬みつきますのでマスクを装着します。

下写真は摘出したエプリスです。

その病理所見です。

低倍率像ですが、腫瘤は肥厚した異型性の無い歯肉粘膜により覆われています。

下写真は、中等度の倍率です。

豊富な膠原繊維間に反応性骨形成(黄色丸)が認められます。

下写真は高倍率像です。

多形性に乏しい腫瘍性紡錘細胞がシート状・錯綜状に増殖しています。

蘭丸君のエプリスは腫瘍性のものであり、線維腫性エプリス(末梢性歯原性線維腫)であることが判明しました。

歯周組織由来の良性腫瘍とのことです。

完全摘出後の経過は良好であり、骨への浸潤性や遠隔転移性は報告されていません。

今回のような良性腫瘍のものから、各種の肉腫(線維肉腫、骨肉腫)や扁平上皮癌など口腔内に生じる腫瘤状病変が存在します。

早期発見、早期切除は大切ですね。

麻酔の覚醒からすぐにマスク装着となりましたが、今後、食餌はしっかり食べれるようになると思います。

蘭丸君、お疲れ様でした!

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