ハリネズミの血尿(その2 子宮内膜炎による)
こんにちは 院長の伊藤です。
雌のハリネズミの血尿は、子宮疾患が絡んでいることが多いです。
他院で膀胱炎疑いで、止血剤や抗生剤の内服を継続してるが血尿が治まらないとの飼主様からの相談を受けることが多いです。
以前にもハリネズミの血尿についてコメントさせて頂きました。
その詳細はこちらを参照下さい。
そんなわけで、ハリネズミの子宮疾患にまつわる症例報告を今後も続けていくことにします。
本日ご紹介しますのは、子宮の内膜炎が進行して血尿が認められたケースです。
ヨツユビハリネズミのトーンちゃん(雌、1歳10か月)は血尿が続くとのことで、はるばる京都から来院されました。
他院で止血剤・抗生剤の内服はされていたようですが、まずはエコーで子宮の状態を確認させて頂きました。
下写真の黄色丸は子宮で、カラードップラーで青と赤の色がモザイク様に描出されている箇所が子宮内の出血している部位を表します。
念のため、膀胱をエコーで確認しましたが問題ありませんでした。
エコーでは子宮腺癌のように腫大したマスは確認されませんので、おそらくは子宮内膜炎あたりによる出血の可能性が高いように思われました。
子宮内膜炎であれば内科的治療で完治できるのではと考えますが、摘出した子宮から腫沖の腺癌が見つかったり、わずか数百グラムという体重の個体であれば、出血量が僅かでも持続すれば出血多量の失血死に至ります。
飼い主様が京都在住のため、早期の手術をご希望されていることもあり、翌日手術を実施することとなりました。
いつものごとく、全身麻酔のためトーンちゃんに麻酔導入箱に入って頂き、麻酔をかけていきます。
トーンちゃんに麻酔が効いてきたところで、維持麻酔に変えます。
自家製のガスマスクと術中のモニタリング(心電図・酸素分圧測定など)のための電極を装着します。
皮膚を剃毛・消毒して、これから手術に入ります。
皮膚を切皮します。
腹筋を切開します。
下写真の中央に突出しているのが子宮です。
子宮の大きさからすると腫大は認められませんが、子宮内部に血液が貯留しているのが分かります。
右卵巣動静脈をバイクランプでシーリングします。
血管のシーリングを確認したところでメスで離断します。
同じ方法で左卵巣の動静脈も離断していきます。
両卵巣動静脈を離断した写真です。
次に子宮頚部を縫合糸で結紮していきます。
結紮が完了したところで、メスで子宮頚部を離断します。
カットした子宮頚部から出血が認められます(下写真黄色丸)。
子宮頚部を縫合(下写真黄色丸)して卵巣子宮摘出は終了です。
腹筋を縫合します。
次いで皮下組織を縫合します。
最後は皮膚縫合で手術は終了です。
維持麻酔のイソフルランの流出を停止させて、トーンちゃんを覚醒させます。
酸素だけを吸入させて、覚醒を待機しつつ抗生剤の注射を行います。
少しづつトーンちゃんの意識が戻ってきました。
側臥の姿勢から起き上がろうともがき始めます。
意識が完全に戻る前に爪を切ります。
ハリネズミの爪切りは煩雑で、実際に行おうとすると体を丸めてブロックされます。
従って、今回の様に全身麻酔した時は、同時に爪を切ります。
腹筋からの出血が続く様なので、腹帯をして圧迫止血します。
止血が完了するまで数時間このまま、腹帯をしてもらいます。
麻酔の覚醒も問題ありませんでした。
さて摘出した卵巣と子宮です(下写真)。
腹側面です。
背側面です。
この子宮角部を切開しました。
子宮内膜は肥厚しており、点状出血が認められます。
細菌感染があるようで灰白色の粘液が貯留しています。
子宮内膜面をスタンプ染色しました。
子宮内膜細胞に混じって、細菌や白血球などの炎症細胞が認められます。
高度の子宮内膜炎であることが判明しました。
手術の翌日のトーンちゃんです。
食欲も出て来ました。
術後2日目に退院して頂きました。
お迎えにみえた飼主様に甘えたような表情を示しています。
トーンちゃんは退院時に血尿も認められなくなりました。
雌のハリネズミの飼主様、血尿がありましたら、お早目に動物病院の受診をお勧めします。
トーンちゃん、お疲れ様でした!
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