こんにちは 院長の伊藤です。

ヨツユビハリネズミは腫瘍の多い動物種です。

今回は、肝臓の腫瘍について述べたいと思います。

ヨツユビハリネズミの小春ちゃん(雌、1歳5か月齢、体重440g)は元気食欲がなく、お腹が張って来たとのことで来院されました。

ハリネズミは犬や猫の様に体を開いて容易に触診できるわけではありません。

勿論、全身麻酔すればある程度、詳細な情報を精密検査で得ることは可能です。

しかしながら、どんな疾病なのか分からない状態で、最初から全身麻酔を施すということはリスクが高いです。

結局、レントゲン撮影を実施致しました。

無麻酔下なので体を丸めてしまうため、諸臓器のチェックの詳細は困難となります。

下写真では、小春ちゃんの腹部は、磨りガラス様に白濁しています。

これは腹水が、高度に腹腔内に貯留していることを示しています。

加えて、側臥の状態では腹水と諸臓器のコントラストで、臓器の一部が腫大している(マス)が認められます。

数日の間、腹水を抜くために利尿剤などの投薬を行いましたが、小春ちゃんに劇的な変化は認められません。

飼い主様とも相談して、試験的開腹を実施することとしました。

イソフルランの麻酔導入を行います。

次第に麻酔が効いてきました。

一旦、麻酔導入箱から出て維持麻酔に切り替えます。

筋肉も弛緩しているので、改めてレントゲン撮影を行いました。

黄色矢印は腹腔内の貯留している腹水を示します。

側臥姿勢でも黄色矢印は腹水を示しますが、食欲不振のため小腸内にガスが貯留しています(赤矢印)。

加えて、麻酔下でエコー検査を実施しました。

エコーの画像ですが、黄色丸は腫大した肝臓を示します。

低エコー領域と液体の貯留している領域が確認できます。

均一なエコー源性が無い点から、肝実質の炎症や腫瘍が疑われます。

試験的開腹を実施します。

ご覧の様に腹部の腫大が著しいのがお分かり頂けると思います。

腹部正中線に切開を加えます。

腹筋を切開して、腹部を確認すると大量の腹水が貯留しているのが分かります。

腹水を吸引して、腹部をすっきりさせます。

下写真で暗赤色で顔を出しているのが肝臓です。

肝臓の表面は凸凹しており、血管が肝表面に怒張・浸潤しています。

小雪ちゃんの頭と比較して、肝臓が大きく腫大しているのが分かります。

出来れば肝臓の細胞を針穿刺して調べたかったのですが、高度の血管浸潤により穿刺後の出血が止まらなくなる場合を想定して、中止しました。

肝臓全体に腫瘍が広がっているため、特定の部位を摘出というわけにいかず、このまま残念ながら閉腹させて頂きました。

腹腔内の詳細を確認させて頂きましたが、腫瘍が確認できたのは肝臓だけで他の臓器への転移はありませんでした。

肝原発性の腫瘍と考えられます。

麻酔から覚醒した小雪ちゃんです。

術後1時間で食餌を摂り始めました。

恐らく多量の腹水により、圧迫されていた消化器が蠕動運動を始めたものと思われます。

肝臓腫瘍に対して内科的治療を実施させて頂くこととしました。

強肝剤、利胆剤、利尿剤などを投薬して経過を診させて頂きます。

試験開腹後の経過は良好で、小雪ちゃんはある程度の食欲は改善してきました。

あくまで対症療法ですから、肝臓腫瘍が完治するわけではありません。

ホスピス的に天寿を全うする方針に飼主様も同意されました。

今後はペインコントロールを含めて要経過観察です。

試験開腹後、2週間経過した小雪ちゃんです。

抜糸のため来院されました。

活動性が出てきており、腹部の腫大も治まっています。

小雪ちゃんは約3か月間、闘病生活を送られた後に逝かれました。

あの肝臓の状態で3か月頑張ることが出来たのは、小雪ちゃんの体力・気力は勿論のこと、飼主様の細やかな愛情によるところが大きいです。

当院では、ヨツユビハリネズミの疾病中、腫瘍症例が大部分を占めるようになって来ました。

血尿に始まる子宮疾患や乳腺癌、皮膚腫瘍のように見た目で判断できる疾病ならば、早急な対応も可能です。

しかし、今回のような腹部主要臓器の腫瘍となりますと飼主様も気が付かないことがほとんどです。

犬猫同様、ハリネズミも定期検診をせめて半年に一度くらいの割合で受診されると良いと思います。

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