こんにちは 院長の伊藤です。

本日ご紹介しますのはハリネズミの卵巣腫瘍の症例です。

ハリネズミの雌においては、2歳以降に血尿で来院される場合、多くが子宮卵巣の腫瘍が関与していることが多いです。

実際、早期に血尿を見つけて外科的に卵巣子宮を摘出できれば、予後は良好です。

今回は、摘出した卵巣が腫瘍になっていたケースです。

ヨツユビハリネズミのしげぞうちゃん(雌、2歳6か月、体重600g)は血尿が出たとのことで来院されました。

血尿に関しては、まだ大量出血というステージではありません。

産科系疾患の予防医学的な面も含めて、卵巣子宮全摘出を飼主様が希望されたこともあり、手術を実施することとなりました。

いつも通りのイソフルランによる麻酔導入を実施します。

しげぞうちゃんには麻酔導入箱に入ってもらいます。

イソフルランが効いてきて足がふらつき始めます。

麻酔導入が完了したところで、下腹部を剃毛・消毒してモニターのセンサーを装着します。

皮膚にメスを入れます。

皮膚切開時に多少、下腹部を圧迫したためか陰部から出血が認められました(下写真黄色丸)。

下写真の外に出ている臓器は膀胱であり、膀胱内の出血は無いのがお分かり頂けると思います。

この点からも、膀胱炎などが原因の血尿と言うわけではなく、卵巣子宮からの出血が絡んだものであることが推察されます。

下写真の青矢印が子宮体であり、子宮角は若干腫大しており、一部内出血があるようです。

加えて、黄色丸は左の卵巣ですが大きく結節大に腫脹しています。

黄色矢印は嚢胞状を呈した卵巣を示します。

膀胱内には大量に蓄尿があり、子宮頚部を縫合糸で結紮する上で障害となりますので、注射針で膀胱穿刺して尿を吸引します。

卵巣動静脈をバイクランプでシーリングします。

シーリングした血管をメスで離断します。

反対側の卵巣もシーリングします。

子宮頚部を縫合糸で結紮をします。

子宮頚部を結紮すると血行が遮断されますので、卵巣や子宮角部の高度に血管が怒張・浸潤している部位が明瞭に分かります。

メスで子宮頚部を離断します。

子宮頚部を離断すると一挙に子宮内から血液が出て来ました。

メスで離断した子宮頚部を縫合します。

腹腔内に腫瘍が転移していないか、確認します。

肉眼的には他の臓器への腫瘍は認められませんでした。

腹筋を縫合します。

皮膚を縫合して手術は終了です。

陰部からの出血が認められます。

麻酔から覚醒したばかりのしげぞうちゃんです。

麻酔覚醒は順調で問題ありませんでした。

手術後1時間経過したところです。

しげぞうちゃんは普通に歩行できています。

摘出した卵巣子宮です。

黄色矢印は腫大していた左卵巣です。

裏側から見た卵巣です。

下写真は子宮内膜を示す病理写真です。

子宮内膜はびまん性に肥厚しており、子宮内膜ポリープを形成しています。

高倍像です。

ポリープを構成する子宮腺上皮細胞と紡錘形細胞が認められます。

子宮は、子宮内膜過形成及と子宮内膜ポリープとの病理診断でした。

問題となる左の卵巣の病理写真です(中等度倍率)。

多形性を示す類円形・多角形細胞(卵巣間質腺細胞)が認められ、核は大小不同・偏在を示し、明瞭な核小体を有しています。

病理医によるとこの卵巣由来と思われる腫瘍は、特徴が乏しく起源の特定は難しいとのことでした。

しげぞうちゃんの術後の経過は良好で、患部の抜糸も無事終了しました。

その後は陰部からの出血もなく、元気に過ごされています。

しげぞうちゃん、お疲れ様でした!

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