こんにちは 院長の伊藤です。

本日ご紹介しますのは、ヨツユビハリネズミの乳腺腫瘍例です。

以前にもハリネズミの乳腺腫瘍について記事を載せていますので、興味のある方はこちらをクリックして下さい。

ヨツユビハリネズミのみるくちゃん(雌、3歳2か月齢)は左の胸部が腫れているとのことで来院されました。

ハリネズミの場合、体表部(胸部から下腹にかけて)の腫脹があれば、身体を丸くした時に若干、丸くなりきれずに隙間が空きます

身体を丸くしても、空いている隙間を下写真の黄色丸は、示しています。

触診して確認すると、左第一乳房周辺に硬い腫瘤が確認されました。

細胞診で乳腺腫瘍の疑いがあり、外科的に摘出することとなりました。

みるくちゃんにイソフルランによる麻酔導入を実施します。

麻酔が効いてくると次第に体を開けるようになります。

麻酔導入が完了して、身体は完全に伸展しています。

麻酔導入箱から出て頂き、維持麻酔に切り替えます。

側面から見た画像です。

患部が腫脹しているのがお分かり頂けると思います。

下写真黄色丸が乳腺腫瘍を示します。

広いエリアに腫瘍が発生してるのが分かります。

患部を剃毛、消毒します。

患部の血行障害もあり、若干内出血が確認されます。

麻酔状態も安定しましたので、早速摘出手術を実施します。

皮膚も乳腺と同時にザックリ切除するのが理想です。

しかし、皮膚切除が広範囲に及ぶとテンションをかけての縫合となります。

ハリネズミは、本能的に丸くなり、患部を絶えず伸展・伸縮を繰り返す動物です。

その結果、縫合部は簡単に吻開してしまいます。

そのため、皮膚は出来る限り残す方向で切開をします。

皮膚切開を行い、バイポーラ(電気メス)で皮下組織を止血・切開しているところです。

次いで、乳腺を含めた腫瘍にアプローチします。

バイポーラで腫瘍本体を隣接組織から剥離していきます。

ハリネズミでも乳腺には太い血管が走行していますので、バイクランプでシーリングを行います。

下写真は2つの乳腺組織(白・黄色矢印)が認められます。

それぞれの乳腺は腫大して辺縁が鈍化しています。

黄色矢印の乳腺から摘出をします。

摘出完了です。

次いで、白矢印の乳腺を摘出します。

摘出完了です。

これらの乳腺に接して腫大しているリンパ節を最後に摘出します。

摘出後の患部です。

皮下組織を合成吸収糸を用いて縫合します。

今回の縫合部はテンションがかかる部位なので、皮膚縫合の減張の意味も含めて、しっかりと縫合します。

皮下組織の縫合は終了です。

皮膚縫合を4‐0のナイロン糸で実施します。

皮膚縫合終了の患部です。

患部は細かく縫合しましたが、みるくちゃんが丸くなると口が患部に届く位置にあるのが心配です。

麻酔を切り、覚醒し始めたみるくちゃんです。

ちなみに、みるくちゃんは左眼が白内障になっています。

摘出した腫瘍です。

摘出患部の病理写真です。

中拡大の画像です。

軽度に異型性のある紡錘形の腫瘍細胞がシート状、花むしろ状に増殖しています。

高倍率像です。

腫瘍細胞は中等量の弱好酸性細胞質、中等度の大小不同を示す類円形から細長い正染核、並びに明瞭な核小体を有しています。

病理医の診断では、分裂頻度が低いため、悪性度の比較的低い腫瘍とのことです。

腫瘍性増殖を示さない乳腺分泌上皮細胞を背景にして紡錘形細胞が増殖しているため、乳腺終末腺房を構成する分泌上皮筋上皮の内、筋上皮が腫瘍化したものと判断されるそうです。

最終的な診断名は悪性筋上皮腫です。

ちなみにヒトにおける乳腺腫瘍でこの筋上皮腫にあたるタイプは非常に稀だそうです。

ヨツユビハリネズミでは案外、多いのかもしれません。

今回の腫瘍細胞の脈管内浸潤は認められず、摘出は完全・予後は良好と病理医から診断されました。

しかし、今後の他の乳房からの新規病変の発生には引き続き、経過観察が必要です。

また現状では、避妊手術と乳腺腫瘍との相関関係は、犬や猫のようにヨツユビハリネズミでは明らかにされていません。

みるくちゃん、お疲れ様でした!

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