ハリネズミの顆粒膜細胞腫(その2)
こんにちは 院長の伊藤です。
本日ご紹介しますのは、ハリネズミの卵巣腫瘍(顆粒膜細胞腫)です。
ヨツユビハリネズミの顆粒膜細胞腫については、まだその生物学的挙動や術後の予後については分かってません。
以前にこの顆粒膜細胞腫についてコメントを載せていますので、興味のある方はこちらをクリックして下さい。
ヨツユビハリネズミの佐之助ちゃん(雌、2歳9か月齢、体重508g)は血尿(陰部からの新鮮血)が続くとのことで来院されました。
下写真は血尿が出ている所です。
佐之助ちゃんは血尿が出てから元気・食欲が半減してます。
血尿が出た場合は、レントゲン・エコーで子宮疾患や腹腔内腫瘍の確認をとることも多いです。
しかし、ハリネズミは身体を丸める動物のため、これら精密検査のため鎮静・麻酔をかける必要が出て来ます。
また体重も数百グラムという小さな個体もいるため精密検査を実施しても、体内の詳細な情報を十分に得ることが出来ない場合もあります。
結局、本人の全身状態に合わせて手術に耐えられるなら早めに試験的開腹を実施し、肉眼で卵巣子宮疾患を疑ったら外科的に摘出します。
今回の佐之助ちゃんはその流れで、試験的開腹をすることとなりました。
イソフルランで麻酔導入を施します。
麻酔導入が完了したら、麻酔導入箱から出て頂き、マスクを装着し維持麻酔に切り替えます。
患部の皮膚を剃毛します。
度々の血尿で外陰部周辺も血液が付着しています。
早速、正中部にメスで切開を入れます。
腹腔内には腹水が貯留していました(下写真青矢印)。
右側子宮角を露出します。
子宮角を牽引したところで黄色矢印が示す黒色を呈する卵巣が確認されました。
卵巣を丁寧に全体を露出させると腫大した淡黄色の卵巣が現れました。
左卵巣動静脈をバイククランプでシーリングしようとしたところ、卵巣の血管が破綻し、急いで止血とシーリングを処置しているところです。
卵巣子宮疾患の場合、炎症や腫瘍で組織自体が脆弱になっていますので、取り扱いに注意が必要です。
シーリングが完了して出血も止まりました。
次に右卵巣動静脈をシーリングします。
シーリングした部位にメスで切開を入れます。
子宮頚部を合成吸収糸で結紮します。
子宮頚部を2か所結紮した後にメスで離断します。
子宮頚部の断端を縫合・閉鎖します。
これで卵巣子宮摘出は終了です。
腹水は貯留してましたが、肉眼で見る限りは腹腔内への腫瘍転移と思しき所見はありません。
腹筋・皮膚を縫合して閉腹終了です。
麻酔を切り、佐之助ちゃんの覚醒を待ちます。
半覚醒の状態で皮下輸液を施しています。
麻酔から覚醒した佐之助ちゃんです。
摘出した卵巣・子宮です。
青矢印は左卵巣で正常です。
黄色矢印は右卵巣を示し、卵巣は腫大しうっ血色・淡黄色などを呈しています。
右子宮角(下写真黄色丸)は軽度の腫大が認められます。
下写真は右卵巣の中拡大像です。
軽度に異型性を示す多角形・短紡錘形腫瘍細胞の充実性胞巣状・多嚢胞状の増殖巣が形成され、既存の卵巣組織の大半が置換されています。
右卵巣は顆粒膜細胞腫との診断でした。
右卵巣の高拡大像です。
腫瘍細胞は好酸性微細顆粒状か空胞状の細胞質、軽度の類円形から楕円形の正染性核、小型の核小体を有しています。
病理医からは腫瘍細胞の脈管浸潤像や漿膜外への播種は認められないとのことでした。
下写真は子宮の低倍率像です。
子宮角部においてポリープ状の腫瘤が認められ、子宮内膜間質結節との診断です。
現在のところ、この子宮内膜間質結節は非腫瘍性疾患として考えられています。
顆粒膜細胞腫は卵巣の性索間質細胞由来の腫瘍疾患です。
この腫瘍は性ホルモンを産生するため、結果として子宮内膜過形成や血小板減少症を併発します。
術後の定期的な経過観察が必要です。
ヨツユビハリネズミの臨床は、その大半が腫瘍との戦いであると思っています。
佐之助ちゃん、お疲れ様でした。
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