こんにちは 院長の伊藤です。

ウサギに次いでハリネズミの子宮疾患は多く、卵巣・子宮全摘出を行うことで完治させてます。

ハリネズミの場合は子宮ポリープ、子宮内膜炎、子宮腺癌が多いのですが、今回は子宮腺が過剰に増生して子宮筋層まで進行して漿膜面まで過形成してしまった症例です。

手術手技的にも難しい点があり、ご紹介します。

ヨツユビハリネズミのこひなちゃん(雌、2歳4か月)は血尿が激しく続くとのことで三重県から来院されました。

かなりの出血が認められます。

早速、レントゲン撮影を実施しました。

下写真の黄色丸は腫大した子宮です。

子宮が腫大していることから、恐らくは子宮内膜炎などの炎症反応による出血と考えられました。

卵巣子宮全摘出手術を飼主様にお勧めし、ご了解を得たので早速全身麻酔をします。

麻酔導入が効いてきました。

維持麻酔に切り替えます。

陰部からの出血が確認されます。

心肺機能などのモニターのためのセンサーやコードが小さな体に装着されます。

腹部の正中切開を実施します。

切開線の真下に現れたのは子宮です。

赤矢印は子宮体ですが、多量の出血のため高度の貧血色を呈しています。

黄色矢印は子宮体に形成された茶褐色の腫瘤を示します。

当初この腫瘤は腫瘍であろうと思われました。

後ほどこの腫瘤の病理検査の結果をお伝えいたします。

まずは左側の卵巣動静脈をバイクランプでシーリングを行います。

バイクランプで80℃の高熱で血管を熱変性・シーリングします。

これだけ小さな部位は縫合糸で結紮するのは難しいのですが、バイクランプでは容易に短時間で達成できます。

シーリングされた部位はメスで離断します。

出血は全くありません。

次いで右側の卵巣動静脈をシーリングします。

シーリングの部位を同じく離断します。

次は子宮頸管に走行している子宮動静脈のシーリングです。

子宮頸管の左右に走行している血管を完全にシーリングします。

ご覧いただいて分かるように子宮頸管が非常に腫大(黄色矢印)しています。

当院HPのハリネズミの他の子宮疾患の記事をご覧いただけると明らかですが、正常なハリネズミの3倍以上の子宮頸管の太さになっています。

本来の縫合糸による結紮では十分な結紮は出来そうにありません。

子宮頸管内部がどのようになっているか不明のため、予想外の出血に対応できるようにレーザーメス(下写真)を準備しました。

この半導体レーザーのチゼルプローブは200℃近い熱を発し、微笑血管なら瞬時に炭化・止血します。

慎重に切開して行きます。

水分を多く含む組織では下写真の様に煙が立ちます。

切開を進めていくうちに充血・肥厚した子宮頸管内膜が出現しました。

切開して出現した組織(赤矢印)は過剰に形成された子宮内膜です。

興味深いのは黄色矢印の組織で、これは赤矢印の子宮内膜組織が子宮筋層を破って、子宮漿膜面に突出したものと思われます。

子宮漿膜面の外周をレーザーメスで切開して行くと子宮頸管内の子宮内膜組織が、そのまま一緒に外れるように摘出されました。

残っている子宮頸管は従来通り、吸収糸で縫合します。

これで卵巣・子宮の全摘出は完了です。

左手の鉗子で示しているのは膀胱です。

腹筋を縫合します。

皮膚を縫合します。

手術は無事終了しました。

術後1時間のこひなちゃんです。

貧血気味も加わり、足元はふらつき気味です。

今回摘出した卵巣・子宮です。

ヨツユビハリネズミの子宮としては随分大きく腫大してます。

下写真は腹側面です。

側面です。

子宮背側面です。

既に腹腔内で飛び出していた黄色矢印の組織が、子宮頸管内で増殖していた赤矢印の組織と同一のものかという点。

さらに腫瘍組織が関与しているかの点を確認するために病理検査に出しました。

病理検査の結果として、子宮内膜腺過形成増生と間質組織増生に伴う子宮壁の肥厚が認められること。

次いで、子宮内膜腺が筋層を破って突出していることが判明しました。

幸いなことに腫瘍細胞は検出されませんでした。

下写真の卵巣組織では、ホルモン分泌不均衡の原因となる卵巣嚢胞・卵胞嚢胞・黄体形成病変は検出されませんでした。

結論として、子宮内膜腺が過形成されることにより出血性・壊死性病変が起こり、出血多量をもたらしたと推察されます。

問題となる子宮組織を全摘出しましたので、予後は良好と思われます。

術後2日目のこひなちゃんです。

退院当日の写真ですが、食欲も出て来ました。

まだ貧血が治るには、1~2週間は必要ですが、食餌をしっかり取れれば問題ありません。

こひなちゃん、お疲れ様でした!

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