こんにちは 院長の伊藤です。

本日ご紹介しますのは、フクロモモンガのペニス脱です。

過去に犬を初めとして、爬虫類のペニス脱についてもコメントさせて頂きました。

このペニス脱は緊急の状態であることが多いのですが、飼主様はのんびり構えて見えることが多いため、最終手段としてペニスを離断しなければならないこともあります。

今回はペニス離断を余儀なくされた症例です。

フクロモモンガのクウ君(1歳、雄)は1週間前からペニスが出て戻らないようだとのことで来院されました。

下写真の黄色丸がペニスです。

フクロモモンガは解剖学的にペニスの形状に特徴があります。

クウ君の患部を拡大します。

上写真の草色矢印がペニスです。

フクロモモンガのペニスは、先端が2つに分かれて2本のペニスがあるかのようです。

ペニスの二股に分かれた分岐部に尿道口があり、ここから排尿します(黄色矢印)。

有袋類と他の哺乳類の違いがこんなところに現れるんですね。

クウ君の場合、ペニスの先端が自咬で欠損しています。

ペニスの色がピンクではなく、どす黒く青紫色に変色し始めています。

残念ながらペニスが壊死を起こしている状態です。

フクロモモンガのペニス脱は初期段階であれば、もとに戻すことは容易ですが時間が経過するにつれ困難になっていきます。

今回、まずはペニスを戻す処置を行いましたが不可能でした。

壊死している部位が拡大するのを防ぐためにもペニスの離断が必要です。

特に壊死が尿道にまで及ぶと予後不良となりますので要注意です。

早速、手術を実施します。

クウ君に麻酔導入ケースに入ってもらいイソフルランで寝て頂きます。

尿道口の先端を保存する形でペニスを横一文字に電気メスでカットしていきます。

この長さまで離断するとペニスを容易に戻すことは可能です。

ペニスを戻したところです。

麻酔覚醒直後にクウ君は食餌を取り始めました。

そもそもフクロモモンガがなぜペニスを出したり、引っ込めたりするのかはグルーミングや性的なストレスによるものであると言われています。

今回は、クウ君の今後のことも考慮して去勢手術を一緒に実施しました。

術後の排尿も問題なく、経過も良好でクウ君には翌日退院して頂きました。

フクロモモンガはとてもデリケートな個体が多いようで、自咬症による復元手術は多いです。

術後の患部を自咬して、傷が拡大する個体も多いです。

去勢部位を保護するため、クウ君にはフェルト地のエリザベスカラーを装着させて頂きました。

ペニス脱でペニスの根元あたりを自咬して閉まった場合、尿道の開通を確保するために大変な努力を要します。

細くて狭い尿道が癒着してしまうとすぐに排尿障害を来し、尿毒症になって死亡する場合もあります。

したがって、ペニス脱が認められたら、直ちにフクロモモンガの診察が出来る病院を受診されることを強くお勧めします。

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