こんにちは 院長の伊藤です。

本日ご紹介しますのは、久々の犬の異物誤飲シリーズです。

過去の記事からの抜粋ではなく、今年の7月の症例です。

今回の異物は仔牛のあばら骨です。

骨のおやつはペットショップで各種販売されています。

犬の体格に合わせた骨を与えている分には、まだ安心できるかもしれません。

しかし、しっかりかみ砕いて嚥下しているのか、丸呑みこみしているのか、本人次第というのが不安の種です。

フレンチブルドッグの小春ちゃん(2歳4か月、避妊済み、体重9.3kg)はおやつの仔牛のあばら骨を与えてから、食欲不振・嘔吐が続くとのことで来院されました。

フレンチブルドックは活動的です。

多少の異物誤飲をしても外見上はそんな風には見えないこともあります。

ただ嘔吐をしつこく続けるとなれば要注意です。

血液検査を実施しました。

CRP(炎症性蛋白)が7.0㎎/dlを振り切っており、白血球数は20,000/μlを超えてます。

お腹の中で何らかの炎症が起こっているのは疑いありません。

レントゲン撮影を実施しました。

下写真の黄色矢印を示すのが、仔牛のあばら骨の可能性が高いです。

そもそも肋骨が何本もある中で、誤飲した仔牛の肋骨が存在したならレントゲン上、紛らわしいですね。

矢印で示している肋骨は小春ちゃんの肋骨とほぼ同じ太さですが、その両端を確認すると断端が鋭利に割れています。

下写真の側臥状態では、矢印の肋骨は明らかに異物として外から飲み込んだ物と思われます。

胃の中に存在しているのは疑いないですが、場合によっては胃を穿孔していないか心配です。

いづれにせよ、この骨を外科的に摘出することが先決と考えました。

全身麻酔を小春ちゃんに施します。

下腹部に正中切開を行います。

真っ先に出てくる空回腸を確認します。

小腸の異常はありません。

次に核心部の胃をチェックします。

胃を触診した際、十二指腸あたりに指先に鋭利な突起物を感じました。

下写真黄色丸が十二指腸から飛び出している仔牛のあばら骨の先端と思われます。

異物が消化管を穿孔した場合、一番怖いのは細菌で汚染された内容物が腹腔内に漏れ出し、腹膜炎を起こすことです。

加えて、今回の様に肝臓に隣接した位置に突起物がありますので肝臓を損傷する可能性もあります。

穿孔部の拡大写真(黄色丸)です。

穿孔部の周囲組織は発赤腫脹していますが、腸管の癒着や腹水貯留など腹膜炎の症状はまだ出ていないようです。

あばら骨を摘出する上で切開部位を最小限に留めるためにも、穿孔部からメスを入れて、そのままあばら骨を取り出すこととしました。

あばら骨の先端部を鉗子で把持します。

メスを入れた切開部には、いきなり内容物が漏出しないよう縫合糸を先にかけておきます。

切開部を縫合します。

この時、縫合部と牽引するあばら骨と多少の抵抗があるくらいに縫合部にテンションをかけて縫合します。

これからあばら骨を牽引して摘出します。

あばら骨の牽引の進行と共に切開部をまた一針縫合していきます。

これから一気にあばら骨を引き抜きます。

あばら骨の摘出が終わりました。

患部からは出血がありましたが、内容物の漏出は最小限に留めることが出来ました。

さらに切開部とトリミングした穿孔部を縫合します。

縫合が終了しました。

最後に生理食塩水で何回も腹腔内を洗浄します。

術後、腹腔内に滲出液などが貯留する可能性も考えてドレインチューブを留置します。

ドレインチューブ(平型 10㎜)は排液のため数日間留置します。

仔牛のあばら骨摘出手術はこれで終了です。

あばら骨摘出後にレントゲン撮影を実施しました。

術後に腹腔内には異物らしきものは認められません。

全身麻酔から覚醒直後の小春ちゃんです。

3日間、ドレインチューブを腹腔内に留置して、排液も出なくなった術後4日目にチューブを抜去しました。

摘出した仔牛のあばら骨です。

約10㎝近い長さがあります。

本来なら咬み砕いて、砕片になってくれていれば良かったのですが。

ご覧の通り、骨の両端が鋭い槍のようになっています。

十二指腸を穿孔するのも理解できます。

一番、懸念していたのは穿孔部からの腹膜炎でした。

迅速に摘出できたので、大事に至らなかったのは幸いでした。

術後10日目に小春ちゃんは退院して頂きました。

退院時の小春ちゃんです。

便通も良く、元気に退院出来て良かったです。

退院後7日目のの小春ちゃんです。

患部の抜糸のため来院されました。

食欲もあり、元気に散歩も出来ています。

おやつの骨に関しては十分に注意して下さい。

犬は基本的に丸呑みこみすることが大好きな動物です。

小春ちゃん、お疲れ様でした!

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