こんにちは 院長の伊藤です。

本日ご紹介しますのは爬虫類の舌損傷です。

一般に哺乳類においては舌は味覚を担当しています。

案外知られていないのが、爬虫類においては舌が嗅覚に関与しているという点です。

サバンナモニターのカルピス君(性別不明、約1歳)は舌が口から露出しているとのことで来院されました。

サバンナモニターは、アフリカ大陸に生息するオオトカゲ科で体長1mを超える大型のトカゲです。

舌が出っぱなしで口に戻らないようです。

アッカンベーをしているようですが、爬虫類はそのような仕草はしません。

明らかに舌が口腔内に収納できないようです。

下写真の様にサバンナモニターに関わらず、トカゲ類の舌は先端が2つに分かれています(黄色丸)。

口腔内を検査するために開口器を使用しましたが、舌の付根を診ますと大きな膿瘍と潰瘍が認められます(下写真黄色丸)。

これが哺乳類であれば呼吸不全を起こしているでしょう。

舌の損傷部がどの程度のダメージかを確認します。

自分で舌を咬んで穴が開いているのが分かります(下写真黄色丸)。

自分で舌を咬むくらいですから、すでに舌の動きを自身でコントロール出来ていないと思われます。

下写真の舌潰瘍部分(下写真草色丸)はかなりダメージが大きく、舌中央部との段差を生じています。

喉に近い受傷部位(近位端)は黒褐色・膨隆してますが、ここから出血があったことは明らかです。

実際、綿棒で患部を触っている間にも出血が起こっています。

上の写真からも舌の先端部から受傷部位までの領域は血色が保たれています。

つまり、まだ舌の先端までは血行が維持されていますし、舌組織としての機能回復するチャンスがあるように思われました。

暫くの間、抗生剤や鎮痛剤の内科療法で経過を診ることとしました。

さて、初診から2週間後に飼主様から飛び出していた舌が、口腔内に戻ったとの連絡を頂きました。

出血も治まったとのことで、経過は良好のようです。

下写真は、初診から40日後のカルピス君です。

飼い主様が忙しく、初診から2回目の受診です。

舌は口腔に納まっているようです。

食欲もあるとのことです。

口腔内を検査することにしました。

何と舌がありません!

出血があった舌患部には白い結節上の組織があります。

おそらく潰瘍していた患部の壊死が進行して、舌が脱落したものと思われます。

加えて下写真の黄色矢印には膿瘍が存在しています。

まだ患部の炎症は完全に治癒していないようです。

舌は付根近くで壊死・脱落していますが、爬虫類であるからこそ大事に至らなかったのかもしれません。

爬虫類は基本、鼻呼吸ですし、体格に比べて咽頭部が広いということが、舌の長さが足りなくても食餌を嚥下出来たのかもしれません。

陸上脊椎動物には、臭いをかぐ器官が2つあります。

ひとつは、人類では嗅覚の主体となっている鼻腔内の奥に存在する嗅上皮です。

もうひとつは鋤鼻器官やヤコブソン器官と呼ばれる袋状の器官で、両生類では鼻腔に、爬虫類の多くでは口の中に、哺乳類ではグループによって鼻腔や口の中に開いています。

ヤコブソン器官は人類はほとんど退化してますが、ヘビやトカゲでは、このヤコブソン器官が日常の嗅覚の主な感覚器となっています。

ヘビやトカゲのヤコプソン器官は口の中に1対開口してます。

彼らは、常に舌をちろちろさせて外界の空気などからにおい物質の分子を舌にくっつけ、それを口の中に引っ込めるたびにヤコブソン器官の中に舌先を入れて臭いをチェックしています。

臭いで獲物を探すことが多いヘビやオオトカゲの舌の先が二股に分かれているのは、おそらく、左右の臭いの強度を別々に左右のヤコブソン器官でチェックして、餌の方向を見定める一助にしているようです。

残念ながら、カルピス君は舌が脱落していますので、餌の匂いをヤコブソン器官で感知することは出来ないかもしれません。

今後も、飼い主様の愛情で給餌の補助をして頂く必要があります。

カルピス君、舌の炎症が治まるまで頑張りましょう!

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