こんにちは 院長の伊藤です。

本日ご紹介しますのは、ウサギの鼻涙管閉塞です。

鼻涙管とは、涙腺から作られた涙が鼻腔へと流れる通路を指します。

鼻涙管が閉塞する原因ですが、臨床の場で多いのは上顎前臼歯の不整咬合(歯根の過長及び炎症)です。

次いで、ウサギのスナッフルの原因菌であるパスツレラ菌や常在菌であるブドウ球菌が鼻涙管内に侵入して炎症を引き起こし、鼻涙管の閉塞に至る場合もあります。

この鼻涙管が何らかの原因で涙をスムーズに流せなくなる(涙液の排泄障害)ことで流涙症や結膜炎、角膜炎、眼瞼炎などの疾病が引き起こされます。

下はウサギの横顔のイラストです。

鼻涙管を青のラインで描いてます。

眼頭に涙点と呼ぶ涙の流入口があり(ウサギは一か所のみ)、続いて涙小管、涙嚢、鼻涙管という順番で涙は鼻腔内へと流れます。

上記した順路で涙は流れ、その順路を鼻涙系と総称します。

鼻涙系に問題があれば、最初に流涙や眼脂(目ヤニ)などが現れます。

ホーランドロップのくう君(3歳5か月齢、雄、体重1.6kg)は1年近く前から流涙症があり、来院されました。

眼球自体の結膜炎、角膜損傷などはなく、おそらく流涙系の問題と思われました。

下写真黄色丸が流涙症で下瞼が涙で常時濡れており、加えて脱毛も生じています。

フルオレセイン試薬を点眼して、角膜潰瘍検査をしたところ陰性でした。

そのフルオレセイン試薬は点眼後、数分を経過すると鼻腔内から流出してくるのですが、その気配もありません。

明らかに鼻涙管が狭窄もしくは閉塞している可能性があります。

口腔内を確認したところ、前臼歯の過長や不整咬合と思しき所見はありません。

そうなると涙嚢炎や鼻涙管内の炎症(特に細菌感染)が関与した流涙であろうと予測されました。

鼻涙管閉塞あるいは狭窄を確認するために鼻涙管洗浄を実施します。

ウサギの涙点は、下眼瞼側に1つしか存在しなく、上下眼瞼に1つずつ存在する犬猫と異なります。

この涙点に24Gの留置針の外套部を挿入します。

この時、暴れたりする個体もいますので慎重に保定します。

場合によっては、鎮静処置が必要となります。

生理食塩水で洗浄を行います。

鼻涙管が完全に閉塞している場合は、涙嚢および鼻涙管の急性拡張、眼窩への洗浄液が流出により眼球突出を生じることがあります。

くう君の鼻涙管へゆっくりと生食を注入します。

特に注入時の抵抗はありません。

ここで急いで注入すると前述した2次的な問題を引き起こします。

注入した生食は鼻腔から流れ出ます(下写真黄色丸)。

鼻から粘稠度のある粘液滲出物が出てくるのを確認しました。

鼻涙管洗浄が終了した直後のくう君です。

特に眼球突出もなく、落ち着いています。

鼻涙管洗浄の1週間後に再診を受けたくう君です。

経過は良好で、涙の量も減り瞼周囲の皮膚も乾燥してます。

流涙が長く続くと瞼周囲の皮膚は炎症を起こし、脱毛します。

くう君の下瞼の脱毛部分は、まだ生え揃うのに時間はかかるでしょうが、鼻涙管洗浄の効果はあったようです。

今回の様に鼻涙管洗浄で改善するのは、原発性の細菌性涙嚢炎のケースであることが多く、歯根部の根尖病巣や不整咬合に由来する歯牙疾患では根本的治療は望めません。

歯に由来する流涙は、まずは歯科治療から始める必要があることをご了解ください。

くう君、お疲れ様でした!

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