犬の子宮蓄膿症(その4)
こんにちは 院長の伊藤です。
本日ご紹介するのは、犬の子宮蓄膿症です。
これまでにも子宮蓄膿症については、記事を載せております。
興味ある方は、こちら(子宮蓄膿症その1) その2 その3 をクリックして下さい。
子宮蓄膿症は、子宮内膜の嚢胞性増殖と細菌感染による子宮内膜炎が起こり、子宮内に膿性液が貯留した疾患と定義されます。
発症の平均年齢は8~10歳齢で、発情出血開始後の1~2か月の黄体退行期に発症することが多いとされます。
子宮口が開口している場合は、子宮内の滲出液が外陰部に漏出します。
しかし、閉口している場合は子宮が滲出液で著しく膨大し、後述する一般的症状から予後不良となる場合があります。
一般的な臨床症状は、多飲・多尿、嘔吐・食欲不振、外陰部からの滲出液、触診時の腹部圧痛などが挙げられます。
注意が必要なのは、子宮内の細菌群が産生する毒素による菌血症や内毒素ショックの症状です。
血液検査で高窒素血症(BUN値の上昇)が認められたら、細菌毒によるエンドトキシン濃度の上昇が疑われます。
細菌毒は血中に放出されると飛んだ先の各臓器に障害を与えます。
状況によっては、播種性血管内凝固(DIC)を引き起こし、多臓器不全となる場合もあります。
子宮蓄膿症は、単なる子宮疾患ではなく、全身性の感染症であると認識して下さい。
ポメラニアンのナナちゃん(13歳9か月齢、雌、体重1.95kg)はお腹が腫れてきて、元気食欲がないとのことで来院されました。
血液検査の結果、白血球数は39,800/μl(正常値は17,000/μlが上限)、炎症性蛋白(CRP)は7.0㎎/dlオーバー(正常値は0.7㎎/dlが上限)、加えてBUNは71.5㎎/dl(正常値は上限が31.0㎎/dl)と高窒素血症を示しています。
加えて、ヘマトクリット値は15.6%と低下しており、貧血が進行しており、輸血が必要な状態です。
レントゲン撮影を実施しました。
腹腔内に大きなマス(腫瘤)が認められます(下写真黄色矢印)。
側臥姿勢の写真で、このマスが胃・肝や腸を脊椎骨側に持ち上げている位、大きいのが分かります。
エコー検査を実施しました。
腫瘤は子宮であり、子宮内には流動性のある液体が貯留しています。
以上の点からナナちゃんは子宮蓄膿症になっていることが明らかです。
多くの症例では、蓄膿を呈している子宮を全摘出することで回復することが多いです。
ナナちゃんは高窒素血症(おそらく菌血症も起こっているでしょう。)、貧血を合併しているので手術も慎重に行う必要があります。
リスクを覚悟での手術となることを飼主様にお伝えして手術することになりました。
全身麻酔下のナナちゃんです。
下写真黄色矢印は子宮が膨満して下腹部が腫れているところを示してます。
外陰部からは、排膿が確認されます(黄色丸)。
ナナちゃんの子宮口は開口しているようです。
開腹を実施します。
腹筋・腹膜を開けたところで、大きく腫大した子宮が見えます。
子宮を破裂させないように外に出します。
左右の子宮角はご覧の通り、最大に膨らんでいます。
卵巣動静脈をバイクランプでシーリングします。
子宮間膜の血管も同じくシーリングします。
卵巣動静脈をシーリングして離断し、卵巣・子宮を子宮頚部を残して体外に出したところです。
子宮頚部を外科鋏で離断します。
摘出は完了しました。
腹筋を縫合します。
最後に皮膚縫合を行います。
ナナちゃんの手術は終了です。
白内障が進行していますので表情が分かりずらいのですが、全身麻酔から覚醒したところです。
貧血が進行していますので、輸血を実施しました。
摘出した卵巣・子宮です。
ナナちゃんの小さな体にこんなに大きな子宮が納まっていました。
手術前は体重が1.95kgありましたが、子宮自体の重さが512gありました。
実際のナナちゃんの体重は1.4kg弱ということになります。
健康な時(2ヶ月前)のナナちゃんの体重が2㎏であったことから、一挙に体重が落ちてしまったようです。
大変な手術を頑張って乗り越えてくれたナナちゃんですが、残念ながら翌日容態が急変し、逝去されました。
子宮蓄膿症の原因となった細菌群の産生するエンドトキシンによるショックです。
子宮蓄膿症の記事を書く時は、いつも結びの言葉として、早期の避妊手術を受けて下さいとお願いしています。
最初の発情を迎える前の避妊手術で乳腺腫瘍や子宮蓄膿症は予防できます。
合掌。
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