こんにちは 院長の伊藤です。

本日ご紹介しますのは水棲カメの中でもポピュラーな存在であるクサガメです。

以前は在来種であるイシガメの幼体をゼニガメと呼んでいましたが、現在はこのクサガメの幼体をイシガメと呼称しています。

クサガメは在来種と思われている方が多いと思いますが、江戸時代中期以前にはクサガメに関する記録がないとされ、最古の文献でも200年前から日本国内で登場するそうです。

国内で棲息する水棲カメとしてはまだ新しい仲間になるようです。

恐らくは朝鮮半島から移入された品種と推定されます。

現在、日本国内でも野生のクサガメの数は激減しているそうで、すでに中国・台湾・韓国では国を挙げての保護の対象になっている品種です。

さてそんなクサガメですが、代謝性骨疾患の症例です。

クサガメちゃん(20歳、雌)が甲羅が変形しているとのことで来院されました。

甲羅の両端が反り返っている(下写真黄色矢印)のがお分かり頂けると思います。

明らかに甲羅の変形が認められます。

体と比較して甲羅が未成熟であり、体を保護するだけの甲羅の大きさがありません。

自然界ではこの状態では天敵から身を守ることは出来ません。

このような甲羅が未成熟かつ変形しているのは、代謝性骨疾患(くる病)に罹患した過去があるか、現在も罹患している状態を示しています。

この疾患はエキゾチックアニマルには必ずついて回るもので、カメに限らず他のトカゲ,イグアナ,カメレオン等にも見られます。

当院のトカゲ・イグアナあるいはカメレオンの疾病紹介にその詳細を載せましたので、興味のある方はご覧下さい。

代謝性骨疾患は、紫外線照射量と食餌に含まれるビタミンD3が不足することで腸管からのカルシウム吸収が出来なくなり発症する病気です。

カルシウムが吸収されなくなることで低カルシウム血症に至り、補正するためにカルシウムを貯蔵している骨や甲羅から血中にカルシウムを放出するようになります。

結果として、甲羅や骨が曲がったり、成長不良で小さく短い体躯となります。

最悪、骨折したり、顎が変形して食餌が摂れなくなったり、脊椎が湾曲して神経症状が出たりする個体もあります。

クサガメちゃんは年齢は20歳とのことで、残念ながら甲羅の変形は治すことは出来ません。

幸い、神経症状は出ていないので今後、代謝性骨疾患が進行しないよう食餌管理・十分な紫外線照射が必要です。

カメの場合、バランスの取れた食餌が与えられていないケースが多いです。

クサガメちゃんはエビが好きで昔から給餌されていたそうです。

好きな物(特に生餌)ばかり給餌することで栄養学的な問題が発生します。

水棲カメ用の飼料を幼体期から与えていくことが重要と思います。

在来種を飼育されるご家庭では、紫外線ランプまで用意されているケースは少ないと思われます。

しかし、紫外線はカメを飼育する上で重要視されねばなりません。

290nmから310nm前後の波長(UVB)は新陳代謝を促して、体内でのビタミンD3生成に関与します。

本能的にカメはリクガメであれ水棲カメであれ、日光浴を好みます。

飼育管理上の問題で紫外線ランプを常設できなければ一日の内、数時間は日光浴すると良いです。

加えて、クサガメちゃんは後肢の足底部皮膚炎を起こしていました(下写真黄色丸)。

カメは犬猫以上に長寿の個体が多いため、幼体期にしっかり飼育環境を整備しておかないと代謝性骨疾患に陥り、その後何十年も問題を抱えて生きて行かなくてはならなくなります。

一度、この代謝性骨疾患で骨変形すると元の状態に戻すことは出来ませんので、くれぐれもご注意を!

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