クランウェルツノガエルの代謝性骨疾患
こんにちは 院長の伊藤です。
本日ご紹介しますのは、カエルの代謝性骨疾患(Metabolic Bone Disease)です。
以前、ベルツノガエルの代謝性骨疾患についてコメントしましたので、興味のある方はこちらをクリックして下さい。
代謝性骨疾患とは、骨を形成するため必要なカルシウム、リン、ビタミンD,紫外線などが足りなくて引き起こされる骨成長不全や低カルシウム血症を指していいます。
カエルの理想とする餌の栄養分は、カルシウムとリンの比が1:1もしくは2:1のバランスです。
カエルは基本的に動く物しか食べようとしません。
一般の家庭で給餌できるものと言えば、コオロギやミルワームなどです。
ところが、これらの餌はカルシウムが低くリンの含有率が高いため、餌単体では栄養分としては不適切です。
そのため、少ないカルシウムを補正するためにはカルシウムのパウダーやビタミンD を追加する必要があります。
カルシウムの摂取量が低下しますと低カルシウム血症になり、生体側は低カルシウムを補正するために骨に貯蔵してあるカルシウムを血中に放出し、血中カルシウム値を上昇させます。
結果として、カルシウムの抜けた骨組織は強度的に脆弱となり、骨変形や骨折、あるいは神経症状を引き起こします。
この病態が代謝性骨疾患と呼ばれるものです。
また,成体のカエルについての代謝性骨疾患を述べていますが、オタマジャクシの時代にさかのぼって栄養学的にバランスの不十分な給餌をされた個体は、当然のことながら成体になっても代謝性骨疾患へと移行していくことが推定されます。
クランウェルツノガエルのわらびちゃん(年齢はおそらく1歳未満、性別不明)は食欲低下と歩行困難とのことで来院されました。
クランウェルツノガエルは見た目がベルツノガエルと似ていますが、角がやや長めであり口吻部は尖り気味、頭部は大きめです。
アルゼンチンやパラグアイに分布する体長8~12㎝の地上棲のカエルです。
わらびちゃんは、一般のカエルの様にジャンプして前進することが上手に出来ません。
右前足が正常に機能していないようです。
腹側を診てみます。
右前足があらぬ方向へと曲がっています。
前腕部(橈尺骨)と上腕骨が内側に湾曲しています(下写真黄色矢印)。
次に口の咬み合わせについて調べます。
顎関節が若干変形しており、上顎・下顎の咬合がずれてます。
右前足及び顎関節の変形から、わらびちゃんは代謝性骨疾患に罹患しているのが判明しました。
残念ながら変形した骨や関節は投薬で治すことは不可能です。
まだ初期の代謝性骨疾患であれば、カルシウムやビタミンDの補給で骨を強化して、骨変形の進行を止めることは、ある程度まで出来ます。
下写真はわらびちゃんにカルシウム剤を投薬しているところです。
わらびちゃんは顎関節の可動がスムーズに機能しない点と右前足の変形で姿勢を上手に維持できない点で、飼主様の介護が少なからず必要となります。
特に餌を捕食することが上手に開口して出来ないようなので、暫くは強制給餌は必要となると思います。
代謝性骨疾患は知らない内に進行していきますので注意が必要です。
病態としては初期症状は、歩行が上手に出来ないことに始まり、食欲不振を伴うことも多いです。
病態が進行すると両後肢が起立不能となり、全身麻痺に至ります。
場合によっては、変形性脊椎症や骨折を生じます。
末期的になると高カルシウム血症になって、けいれん発作を起こしたりします。
飼育しているカエルの歩行がおかしいと気づかれたら、早めに受診して下さい。
わらびちゃん、頑張っていきましょう!
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