ジャービルの耳垢腺癌
ジャービルはスナネズミの近縁種(ジャービル=スナネズミという説もあります。)の齧歯類です。
ハムスターやマウス等の小型齧歯類の中でも飼育のしやすさから、最近人気のある品種です。
本日ご紹介しますのは、そのジャービルのミカちゃんです。
ミカちゃんは、右耳周辺を気にして引掻くとのことで来院されました。
既に右耳介内部は出血を繰り返して痂皮(かさぶた)ができています。
この時点では、耳の中を洗浄して抗生剤を投与しました。
加えて耳腔内の出血巣周辺の細胞診を実施しました。
低倍率の画像です。
次に高倍率の画像です。
上写真の黄色矢印で示した細胞は、好塩基性の細胞質と著しい大小不同を呈する大型類円形核を有しています。
また核分裂像も高頻度に認められることから悪性度の高い腫瘍と思われます。
発生部位から耳垢腺癌が疑われます。
耳垢腺とは外耳道に分布する分泌腺であり、汗腺の一種であるアポクリン腺と組織的に同じ物です。
この分泌物がやがて耳垢となるわけです。
ミカちゃんはこの一か月後に患部がさらに腫大しました。
食餌も満足に取れなく、患部側の瞼も開けるのが辛いようです。
思い切り耳介部を引掻くため、出血も甚だしい状態です。
飼い主様のご希望もあり、外科的に摘出することとなりました。
腫瘍がかなり広範囲に飛んでいるようなので、完治を目指しての手術ではなく、腫瘍の増殖に伴う疼痛感や顎関節の機能障害を軽減するための手術となります。
黄色丸で示した部分は、腫瘍が増殖して腫れています。
肉眼で取りえる所まで頑張りました。
下写真は増殖した腫瘍の一部です。
耳介部の形状を損なわないよう縫合しました。
ミカちゃんは麻酔の覚醒も問題なく、手術は終了しました。
出血もあり、術後は痛々しい感じですが、顔面の腫れも小さくなりました。
ミカちゃん、よく頑張ってくれました。
残念ながらこの手術の11日後にミカちゃんは逝去されました。
手術を行うのは勿論、動物の延命を考慮してのことです。
11日という日数で延命効果と言えるか、返答に悩むところです。
エキゾチックの手術はいつも緊張して臨みますが、成功と失敗が表裏一体の感じが強いです。
犬猫クラスの大きさの動物であれば、ある程度の予測も可能ですが小型齧歯類は非常に難しいものがあります。
少なくとも手術をして、ミカちゃんが一時であれ、あの大きな腫瘍からのストレスから解放されたと感じてくれたら嬉しいです。
合掌