新米獣医師のつぶやき-part9-~分子標的薬について~
こんにちは、新米獣医師の苅谷です。
梅雨も明け、だんだんと夏らしい気候にもなってきましたね。
去年までのこの時期は神奈川県にいて、こちらに移り住んで、「夏ってこんなに暑かったっけ?」と思う今日この頃です。
さて今回は前回の続きで分子標的薬についてお話します。
分子標的薬は抗がん剤の一種で、腫瘍細胞が無限に増殖する際に関係する特定の小さなタンパク(小分子)を標的にしたものです。
さて、従来の抗がん剤とは何が違うのでしょうか?
従来の抗がん剤は腫瘍細胞の
・細胞分裂の周期が短い
・新しく毛細血管を引っ張ってくる
という特性に注目し、細胞に毒性のある薬剤を集中的に投与するもです。
しかし、腫瘍に特異的に作用するものではないため、細胞の分裂の周期が比較的早い胃や腸などと言った消化器循環血液量の多く、物質の交換をおこなっている腎臓といった正常な細胞にも作用してしまい、副作用が出てしまいます。
また、腫瘍の中には抗がん剤が作用する前にすぐ取り除く機能を得るものもおり、抗がん剤への耐性化も問題となっています。
そこで出てきたものが分子標的薬です。
腫瘍細胞では細胞を増殖、浸潤、転移、細胞死抑制といったことに関与する特有のタンパク、または特定のタンパクを正常細胞と比較して多く発現しています。
この点に注目して作成されたのが分子標的薬で、腫瘍に特有なタンパクの機能を阻害し、細胞死を誘導する薬です。
分子標的薬の標的となるタンパク(ここでは標的分子とします)は腫瘍細胞に特有、正常細胞において発現していてもほんのわずかなため、腫瘍細胞には作用して、正常細胞にはほぼ作用しません。
このため、腫瘍細胞にはよく効き、正常細胞をほぼ守ることが出来ます。
今回セミナー受けてきた内容の「肥満細胞腫の分子標的薬」についてです。
現在の日本の獣医療では犬・猫においてc-kitの遺伝子の変異がある肥満細胞腫のKITというタンパクをターゲットとした分子標的薬が使用されています。
前回もお話しましたが、肥満細胞腫は基本外科的に切除することによって治療しますが、場所が場所でマージンが取れない部位や再発した場合には化学療法を使用します。
現在、使用されているKITに対する分子標的薬は主に2剤あり、院長の過去の記事で紹介されているイマチニブです。
もう一つがつい最近、日本においても販売が開始されたトセラニブという薬です。
イマニチブは犬の肥満細胞腫の分子標的薬の中において第1選択薬として選択されるものです。
そして、イマニチブの効きがいまいちだった場合の次はトセラニブです。
こちらの薬はイマニチブ同様の抗腫瘍効果に加えて、抗血管新生作用‐腫瘍への新しい血管が行くことを抑える効果もあります。
これにより、イマニチブより効果は高いのですが、その分副作用が出てきてしまいます。
またトセラニブと放射線療法の併用において放射線療法の効果が増強され、放射線障害が発生してしまったという報告もありました。
強い薬は毒薬にもなりうる、そのようなものですね。
今回、セミナーに参加して再び関心を持つようになった分子標的薬。
学生時、細胞レベルでの分子標的薬の効果は良い方向だったのですが、やはり生体においては色々な作用が起こり、上手く抗ガン作用を発揮してくれないのだと腫瘍の新しい治療法の確立に難しさを感じました。
今後、腫瘍の治療において、より良い治療法の確立に対する研究に期待ですね。
今後のどんな腫瘍でも治せるようになったらいいなと思った方はこちらのクリックをよろしくお願いします。