新米獣医師のつぶやき-part34-~ステロイドの表と裏~
こんにちは、獣医師の苅谷です。
ここ最近は暖かい日が続き、急に寒くなったので体調を崩すということもあったと思います。
今回は使用されることの多いステロイドについてお話しします。
まずはこのステロイドとは何かです。
ステロイドはステロイド核を持つ体内で作られる物質のことを指します。
ちなみにステロイド核というものは
このような構造をしています。
生体内ではコレステロールや性ホルモン、副腎皮質ホルモンといったものが挙げられます。
この中で医療現場においてステロイドと呼ばれているものは副腎皮質ホルモン(その中でも糖質コルチコイド)です。
この副腎皮質ホルモンは体の中では代謝や炎症の制御、ナトリウムといった電解質の制御、免疫の抑制に使われています。
この中で炎症の制御と免疫の抑制という作用を薬の機能として使用いています。
この薬は例えばどのような状態の時に使っていくのでしょうか?
一つ目はかゆみを伴う皮膚疾患、アトピー性皮膚炎やアレルギー性皮膚炎です。
体の外部に対する過剰な免疫反応によって皮膚に炎症が起こり、かゆみという症状が出てくるため、このステロイドにより症状を抑えることができます。
二つ目は自己免疫疾患で関節リウマチや炎症性腸疾患(IBD)です。
炎症性腸疾患(IBD)に関しては以前の院長の記事をご覧ください。
免疫細胞たちが自分の体の一部を敵と誤認してしまい、臓器に攻撃をして障害を与えてしまうので、その免疫細胞の活動を抑制することで抑えていきます。
三つ目はある種の悪性腫瘍に対する抗がん剤としての使用です。
ある種の悪性腫瘍とはリンパ腫や白血病といった免疫にかかわる白血球による腫瘍です。
その他にもショック状態や中毒、慢性炎症などにも使われます。
このようにいろいろな場面で使われるステロイド、症状や疾患によってその薬の強さや作用している時間でいろいろと種類があります。
動物の場合だと、薬の継続投与が難しいとなると長期間作用する薬の選択となります。
当院でもこのように何種類かの注射薬を準備しています。
ここまではステロイドの表の部分をお話してきましたが、やはり薬ということでその裏の部分、副作用もあります。
一つ目は免疫抑制に伴う易感染性、つまり感染症にかかりやすくなるということです。
本来であれば免疫細胞が退治してくれていた病原体が生き残り、体に悪さをします。
二つ目は食欲増進、多飲多尿、皮膚が薄くなる、お腹が出てくる、筋力の低下、高血圧といったクッシング症候群の症状が出てきます。
クッシング症候群は副腎皮質ホルモンの過剰分泌により起こるもので、ステロイドは副腎皮質ホルモンと同じ作用をする物質であるため、長期間使用しているとこのような症状が出てきます。
三つ目は消化管(胃など)の潰瘍が起こることです。
痛みやかゆみの元となる炎症を抑える際に胃などの粘膜を作るために作用する物質の合成も抑制してしまうため、胃酸で傷つきやすい胃では潰瘍になってしまうわけです。
このようにステロイドは炎症や自己免疫疾患に対する使い勝手の良い薬ですが、一方で使い方を間違えると大変な状況に陥ってしまう諸刃の刃です。
またステロイドの投薬中では易感染性となるため、細菌感染をしてしまった場合、やむなく抗生剤の投薬をせざる負えなくなることもあります。
この場合、免疫細胞の病原体の除去する能力が落ちてしまいますので、以前の抗生剤の記事でお話した薬剤耐性菌も現れやすくなってしまうため、かなり注意が必要です。
免疫が関わる病気は完治することができないので、症状に合わせて薬を使い、上手く付き合っていかないといけませんね。
もう私もそろそろ勤務し始めて一年たちますが、これからも精進していきたいと思います。
ステロイドの使い方には注意しなきゃと思った方は
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